あぁ、君と過ごす時よ
猫は死期を悟ると自分から姿を消すという。
君は?君はどうなのだろう。
ともに幸せになると誓い合った君は俺に何もいわずにいなくなってしまうのか?
「ミカナギサン…?」
ふと感じた不安にいてもたってもいられなくなり、闇識君の寝泊まりしている部屋に向かう。
扉を開けた俺は果たしてどんな顔をしていたのか、闇識君は俺を見て目を丸くしていた。
「どうしました?」
「あ、いや…」
視線をさまよわせ、そばに行くと傷に響かぬように抱きしめた。
息を吸い込めば闇識君の香りがする。
「ミカナギサン?」
「すまないな、何もいわずに」
「いえ…どうしました?」
「…不安になったんだ」
「え?」
闇識君をベッドに座らせ、その隣に腰掛ける。
顔の半分を白い包帯で巻く姿は痛々しい。
そっと頬をなでると闇識君は猫のように目を細めた。
「猫は自分の死期を悟ると姿を消すという…そういう話を聞いたら闇識君も、いつか俺の前からいなくなるんじゃないかと思って…」
「いなくなるはずがありません」
「え…」
「ミカナギサンは約束してくれましたから。幸せになると。僕はミカナギサンがいるから、ミカナギサンは僕がいるから幸せになるのでしょう?」
「それに…」
闇識君はうつむいてしまった。
こころなしか、顔が赤いような気がする。
「僕はミカナギサンの腕の中で死にたいから」
「闇識君…」
「だから、ミカナギサンが思っているようなことはありません」
顔をあげてきれいに笑う君。
俺はなにを心配していたのか。
いなくなるはずがない。
闇識君に否定されてようやく落ち着いた。
「あぁ、そうだな」
「ミカナギサンは?」
「俺は君が死んだらその隣で死のうかと…」
そういえば君は泣きそうな笑みを浮かべる。
君の魂が体を離れたら、俺もすぐに後を追いかけるつもりだ。
それはすでに決めていたことだ。
「どうして…」
「君とともに生まれ変わりたいからだよ」
また生まれ変わっても、ともにいられるように。
たとえ離れて生まれても、君を見つけられるように。
「…生きて、とはいえない…だって貴方のその言葉がうれしいから」
ひとりぽっちの君を俺は一人にしない。
いや、できないんだ。
君のはかなげな笑みを独り占めしたいから。
君の体を、声を、心を、俺以外に渡したくないから。
「闇識君…愛してるよ」
「僕もです」
重なる唇、交わる想い。
そのままベッドに押し倒せば、乱れた着物から病的なほどに白い肌がのぞく。
そして君は恥ずかしそうに笑う。
「ミカナギサン…ずっとそばにいてくださいね」
「もちろんだ。君がいやだといっても、俺は君を離さないよ」
「はい…」
たとえ死が二人を分かつとも俺は君を離さない。
君が悲しい顔をしないように、俺がそばにいるよ。
だから俺の隣で笑ってて…。
あぁ、君と過ごす時よ
(ミカナギサンは嫉妬深いんですね)
(魅力的な君が悪いんだよ、闇識君)
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