雛鳥親鳥



カインは恋識に拾われた吸血鬼。
何百年と生きる吸血鬼の中でも、まだまだ子供。
今生きている世界のことを知らないカインは恋識にべったりだった。
まるで、生まれたばかりの雛鳥が親鳥を慕うかのように。

「カインー」
「恋識!」

ボロアパートが二人の住む家。
生活費を稼ぐため恋識は一日の大半をバイトに費やしている。
まだまだ未知なるものが多すぎるカインを自分の目が届かないところには置きたくないのだ。
対するカインは一日室内でこの世の中のお勉強中。
一生懸命覚えることを覚えて恋識の役に立ちたいのだ。
バイトから帰ってきた恋識に抱きつけば、頬にキスを贈る。
真っ赤になってしまった恋識を見て首をかしげる。
最近この挨拶を知った。
提供場所は拾ってきた漫画雑誌だ。

「間違ってた?」
「いや、違ってないけど」
「なら、正解!」

言動は子供っぽいカインだが、外面だけは本当にいい。
外を歩いていると女性たちが群がってくるほどだ。
無知なカインを放っておけない恋識はそのたびに女性たちを追い散らしている。

「恋識強いね」
「そんなことないよ」

家に帰ればカインは恋識に甘える。
図体の大きい犬のようだと思いながらも、その腕を何故なのかふりほどけない。
時折カインから感じるのは自分がまとうものよりももっと濃い血の香り。
純粋な吸血鬼であるカインは血を必要とする。
だから時折恋識に置手紙を残して姿を消す。
再び戻ってくるときは血の香りをまとっていた。

「……カイン」
「うん?」

名を呼べばカインは恋識をまっすぐに見つめてくる。
それが少々くすぐったいが、恋識はちゃんと告げた。

「カイン、僕の大きな雛…だめだよ?まだ巣立ったら。わかった?」
「ん、わかった…恋識から巣立たないよ」

くりくりと恋識の頭に頬を寄せる。
その姿はやはり犬。
恋識は小さく笑うと内緒で貯めていたお金で買ったペンダントをカインの首にかけた。
十字架をかたどったペンダント。
恋識から離れていかないようにするための首輪だ。

「恋識?」
「あげる。カインのだよ」

カインは感激したように恋識を見つめた。
なら次は自分がプレゼントを買わなければと意気込んでいる。
さてさて、彼がプレゼントを買えるようになるまでどれほどの時が必要なのかと恋識は考える。
しかし考えても彼が自分にプレゼントを贈るようなシーンは浮かんでこない。
それはつまり


「カインはいつまでも僕の雛でいるんだね」

恋識は嬉しそうに一人つぶやいた。

雛鳥親鳥
(カイン、何読んでるの)
(えっとね、「レディを落とすための十のほうほう」)

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