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水溜まり


 


前日の雨の名残の残るテニスコート。
ここに来るまでにはいくつかの水溜まりがあったが、本日は天気に恵まれ空は晴れ渡っていた。

それは、全国大会へ向けたテニスの県大会の日のこと。
午後の試合を終えた立海テニス部は、勿論順調に勝ち進んでいた。


「すぐに戻るが、まこをよろしく頼むな」


本来ならばもう帰ってもいいのだが、次に当たる強豪校の偵察をするという三強に
丸井と切原、仁王はまこを思い一緒に東屋で柳達の帰りを待つ事にした。


「飲み物買ってくるぜよ」

「行ってらっしゃーい」


柳達が出かけて数分後、東屋からふらふらと仁王が出て行く。
人混みに紛れて行く仁王を見送った丸井は、ぴとりと首もとに引っ付くまこを見た。


「まこー。お前まだ水溜まり嫌なのかよぃ?」


駄々っ子のようにぎゅーっと額を首もとに突っ込むまこに、丸井は苦笑する。
抱きつくように回された小さな手は、丸井のジャージに引っ付き
その小さな腰は、丸井が腕を回して抱き止めている状態で


不謹慎だけど、なにこのかわいいこ!


丸井は、自分を頼ってくれているという事実に不謹慎にも笑みが漏れそうになるのを噛み殺した。


「人が多いのも原因っすかね」


切原が優しくまこの頭を撫でてやりつつ思案を投げ掛けると、丸井も同意しちらりと周りを見る。


「丸井先輩?」


不意に瞠目した丸井に、仁王か柳達が帰って来たのかと思い切原も丸井の見る先を見れば
そこには何かと見慣れてしまった竹柄のジャージを着たテニス部がいた。


「あちゃー。やっぱり立海の試合終わってしもてたか」


「四天宝寺!?」

「なんでお前らここにいんだよぃ」


そこにいたのは、大阪の四天宝寺のテニス部メンバーだった。
切原が驚いたように立ち上がると、コートを眺めていた四天宝寺が振り返る。


「やあ!偵察しに来たで」

「時間間違えてしもたけどな」


偵察とは本来こっそりやるべきだろうが、なんだろうかこの潔さは。
丸井が溜め息をつくと、四天メンバーは東屋へ移動してきた。


「あれ?まこちゃん、なんや元気ないんとちゃう?」

「柳がおらへんからとちゃうか?」


もう慣れたように話しかけてくる彼らは勝手に東屋の中へ入って来るが、何もいうまい。
丸井は金色と一氏の疑問に答えるように近くにあったそれを指さした。


「あー、それもあるけど原因はそれだよ」

「水溜まり?」


指差された足元を一斉に見た四天メンバーは、全員が首を傾げる。


「まこが雨嫌いなのは知ってるっしょ?原因は、まこがまだ子猫の時に雨の日に捨てられた事がトラウマになったんじゃないかって柳先輩は言ってますけど」

「雨の名残でもある水溜まりも、まこは嫌がるんだよ」


苦々しく二人が話すと、四天メンバーも眉根を寄せた。


「まこを捨てるとか、どんな神経してんねんっちゅー話やけどな」

「水溜まりが嫌いやったとつね」

「まこは繊細やからな」

「なんぞ怖い思いしたんやろ」


千歳や石田、小石川がまこを撫でるが、その顔はまだ丸井の首もとに埋まっていて見ることが出来ない。
しょうがないと分かっていつつも寂しさを感じていると


「まこ、少しだけこっち見い」


財前が、にやりと不敵に微笑んだ。


「今日から水溜まり好きにさせたるわ」


ちらりと見た先には、大嫌いなそれがあった。
一瞬だけ顔を上げて見たものの、再び目を閉じようとしたその時


水溜まりに、バシャリッ!と二人の男が飛び込んで来た。


「!?」


水がキラキラと舞い散り、それと同時に色素の薄い髪が太陽にキラキラと反射する。


一瞬きょとんとしたが、わなわなと怒りを露にする二人を見て、まこは思わず笑ってしまった。


「ざーいーぜーん!」

「ひーかーるー!!!おま、ちょ、お前これなにしてくれとんのやアホ!」


キラキラした二人、もとい白石と忍足は、自分を水溜まりに突飛ばした男を見て怒鳴った。
しかしそんな言葉も虚しく財前は悪びれもせず拙論を述べた。


「まこキラキラ好きですやん。せやから、水がキラキラしたらええんちゃうかなと思って。あと謙也さんと部長の髪もキラキラしそうやったんでついでに」


水浸しになり二人は怒ったが
結果出たんとちゃうか?という金色の言葉に財前は救われる。

水浸しになった髪をかきあげながら、白石はふわりと笑みを溢した。


「まあ、まこが少しでも元気になったんやったらそれでええわ」



今日から少しだけ、水溜まこが好きになれるような気がした。



end

その後、笑顔で帰りを迎えた四天宝寺に
仁王はあからさまに不機嫌になり、柳達は盛大な溜め息をついた。

(で、お前達は何故ここにいるんだ?)

(偵察や偵察!)

(今日は、感謝されても疎まれる謂れはないっすわ)

(は?)


第十四回拍手御礼小説







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