log | ナノ





探検と大騒動


 

窓の外に見えるのは、綺麗な庭園。

本日まこは跡部邸へ預けられていました。

ことの経緯は昨日の夕方にまで遡る。
柳達立海二年生組は、体験実習で東京に行く事になった。
午後に部活がある為、まこは切原が責任をもって面倒を見ると言ったのだが、柳達は学校に戻らず解散の為家でお留守番させておこうと思っていた。
しかし、またどこから聞き付けたのか跡部から今から迎えに行くと連絡があり、しょうがなく翌朝柳はまこを跡部に託したのだった。

低い位置にある窓辺から外を眺めていたまこは、やっぱり柳がいなくて寂しいのかしゅんとした表情で外を見詰めていた。


「(柳もいないし跡部もいないし…)」

こころぼそそうにひょろ長いしっぽが左右に揺れる。

そんなまこに気付いたマルガレーテはすとんと後ろに座り、つんつんと鼻先をまこの背に擦りつけた。


「(マルガレーテ?)」

「(まこ、探検しませんか?)」


きょとんとしたまこだが、マルガレーテがカゴをくわえてやってくるとするりとその中へ収まった。


「どこから行くの?」

「まずは3階からです」

「あ、キラキラ」

「シャンデリアの取り替えをしているみたいですね」

「キラキラの廊下」

「大理石です」

「キラキラの置物」

「水晶です」


柳家とは正反対の家に、いつの間にかまこも楽しくなっていた。


「あら…?」


まこ達が探検に出かけてすぐ、様子を見に来たメイドはからっぽの室内に顔を青くした。


「大変です…!まこ様がいらっしゃいません…!」

「「「えぇえぇ!?」」」


慌ててメイドが報告すると、屋敷中の使用人達が集まり捜索活動を開始した。


「誰か不審者が入ったという可能性は!?」

「それはありえません!」

「まこ様は大切な預かり物であり景吾様にとってもとても大切な御方だ!皆こころして必ず探し出せ!」

「「「はい!」」」


そんな事は露とも知らず、まこはマルガレーテに連れられ三階に来ていた。


「(うわぁ!すごい綺麗な絵!)」

「(そうでしょう?私も気に入っているんです。たしか…昔、有名な画家が描いたものだと聞いた事があります)」

「(さすが跡部家…)」

「(さぁ、次は二階の応接間に行きましょう。きっと気に入ります)」

「(うん)」


その頃、使用人達は広い跡部邸を駆けずり回っていた。


「外はどうだ?」

「まだ何も連絡がありません!」

「離れにはいらっしゃいませんでした…!」

「地下のテニスコートにも…いらっしゃいません」

「遊技場もダメです」

「室内プール、浴室も空でした」

「2号館、トレーニングルームは空でした。今から各部屋を探します」


何故か使用人達と一度も会わずに屋敷を探検するマルガレーテとまこのせいで、屋敷内は大騒動だ。
広い敷地内を跡部邸使用人達総出で隈なく探す。

なんとしてでも景吾様が御帰宅される前に見つけ出さなければ…!

使用人達は必死だった。


そんな中、まことマルガレーテは庭園の奥にある薔薇園に来ていた。
迷路の様に入り組んだ薔薇園を、マルガレーテが案内していく。


「(相変わらず綺麗な薔薇だね)」

「(毎日庭師が手入れをしていますからね)」


薔薇の高貴な香に酔いしれつつ、出口に向かって迷いなく歩いていく。
時折種類が変わる薔薇に、まこが興味を引かれると、そのつどマルガレーテは立ち止まり薔薇の説明をした。



「(…!)」


出口付近までたどり着いた時、それに先に気付いたのはマルガレーテだった。


「(マルガレーテ?どうかしたの?)」


ぴくっと何かに反応したマルガレーテに、まこが不思議そうに問い掛けると
マルガレーテは嬉しそうに動物達だけに分かる笑みを見せた。


「(主人の匂いがします!)」


勢いよく走り出したマルガレーテに少し驚きつつ、近づいているのであろう跡部の匂いを探ってみる。が…


僕には全然わからないや


しばらくして、氷帝のユニフォームを着た跡部達レギュラーの姿が見えるとまこは改めて犬の嗅覚の凄さを実感した。


「ワン!(主人!お帰りなさいませ!)」

「アン?マルガレーテじゃねーの」


薔薇園から飛び出すとちょうど跡部を筆頭に氷帝テニス部員達がそこを横切っていた。
マルガレーテが声をかけ走り出すと、レギュラー達は立ち止まり振り返る。


「あれ?マルガレーテ、何持ってんだ…って、」

「「「「まこ!?」」」」


跡部の屋敷には慣れっこなレギュラー達は寄ってきたマルガレーテをふわふわと撫でる。
そして、ふとマルガレーテの持っていたカゴを見ると
そこにはちょこんと顔を出すまこがいた。


「なんだ、御守りしてやってたのか」


跡部が当たり前のように言いまことマルガレーテを撫でると、レギュラー達は呆れ顔で跡部を見た。


「なるほどな」

「まこが来てたんですね」

「どおりで、急にこっちで練習する言う訳や」

「クソクソ跡部!まこ来てんなら俺達にも教えろよ!」


跡部はカゴからにゅーっとまこを引き出し抱き上げるとふわりと後頭部にキスをした。


「今教えただろ。ぐだぐだ言ってないでさっさとコートへ行くぞ」


再び先頭を歩き出した跡部に、皆やれやれとため息をつきながらついて行く。
まこはちらりと跡部を見上げると、小さな手をぺちりと跡部の頬へ押し付けた。


「みゃ(跡部、みんなに言ってなかったの?)」

「アーン?なんだよその手は」


優しく、ふわふわと頬を撫でられる。


「早く帰って来てやったんだ。キスくらいで怒るなよ」

「(それとこれとは話が別だ!)」


跡部はまこ以外には絶対見せない優しい笑みをまこに向けた。
まこは片方の耳をへにょりと折り曲げると、ぴとっと跡部の頬へ頬をくっつけた。



それから、テニスコートへ行く途中で使用人達と会った。
何故か使用人達はひどく焦っている様だったが、まこを見ると安心したように微笑んだ。


「おかえりなさいませ、景吾様」

「ああ」

「まこ様は、景吾様のところにいらしたのですね」

「あの、どうかしたんですか?」

「まこ様がいらっしゃらなかったので、探していたのでございます」

「アーン?お前、脱走してやがったのか。なかなかやるじゃねーの」

「(脱走じゃないよ。マルガレーテと探検してたんだ!)」


END
その後、もちろんまこは授業を終え迎えに来た柳他立海レギュラー陣と一緒に神奈川へ帰りました。

第十三回拍手御礼小説







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -