菊地原くんと私B
されるがままに腕を引かれて歩いていると、ラウンジ近くで立ち止まった菊地原くんは「ちょっと待ってて」と私の腕を離した。……医務室に連れていかれるのだろうか。ため息を吐いて通路に設置されたソファーに座ると、照屋さんに対する罪悪感が涌き出てきた。

「ううう…」
「なに唸ってんの」
「冷たっ」
「頭冷やせば」
「ちょっと痛いよ…ちょっと…」

戻って来た菊地原くんは缶ジュースを頬に当ててきた。えっ…角痛い……痛いって…わざと?

「……温かいのがよかった」
「は?」
「なんでもない……ありがとう」
「ん」

当てられた缶ジュースを受け取ると、少し間を空けて隣に座った菊地原くんも同じ缶ジュースを持っていた。

「菊地原くん……ここにいていいの?」
「なんで?」
「なんでって…」

さっき歌川くんが困ってたけど…。「急にどうしたんだ」と声を掛けてきた歌川くんは、「先行ってて」とだけ答えた菊地原くんが私の腕を掴んでいるのを見て目を丸くしていた。なんか……ごめんね。

「まだ防衛任務まで時間あるから」

医務室行かなくていいの?そう言い掛けた口を閉ざす。
何も聞かないのかなと黙ってジュースを飲む菊地原くんの横顔をちらりと見る。

「顔色よくなったね」
「そう?」
「うん」
「……菊地原くんのお陰かな」

あのまま照屋さんと一緒にいたら…きっとずっと胸が苦しかった。照屋さんと会うと、訓練生だった頃の劣等感を思い出すんだ。

「……比べても意味ないって分かってるんだけどね」
「今の五月は狙撃手でしょ」
「……うん」
「何張り合ってるの」
「……うん」
「馬鹿」
「……うん」
「何頷いてんのさ」
「ええええ…」

ぶうぶうと口を尖らせる菊地原くんに眉を下げる。…なんで怒られたの。
とりあえずジュースを飲んで落ち着こうと口元に飲み口を持っていくが、ポケットに入れていた端末の振動が鳴りびくりと肩が揺れた。メールか…び、びっくりした!

「ついでにお茶買って来いだって」
「戻るの」
「……うん」

ジュース買うと言って出て来たんだった……菊地原くんに「今度奢るね」と声を掛けて、飲みかけの缶ジュースを手に立ち上がる。

「あの……ありがとう」
「飲み物くらいいいよ」
「そのことじゃなくて…」
「五月」
「うん?」
「五月は負けないと思うけど」
「ランク戦のこと?」
「さあね」

お世辞を言わない菊地原くんが「負けない」って言ってくれた。……素直に応援してくれればいいのに。菊地原くんと別れて、作戦室へ戻る途中、ふっと口元が緩んだ。

(20161215)

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