菊地原士郎と同期の女の子 B
「菊地原くんっ」

久しぶりに聞いた声に名前を呼ばれて声が聞こえた方へ顔を向けると、駆け寄って来た五月は、百円玉を持った手を掴んだ。はぁ?なんなの?前にジュース奢ったからって……あれは、正隊員になったお祝いのつもりだったのに。……それをわざわざ五月に言うつもりはないけれど。
小銭に自販機に入れて、五月がよく飲んでいたココアを選んで渡すと、今度はぼくの分だと五月も小銭を入れた。これで前回のことはあやふやになっただろうと選んだジュースを手に壁に寄り掛かる。荒船隊の黒い隊服を着た五月は、前より明るく見えた。

「…………一緒じゃなくて、ちょっと寂しいな」

同じ学校だったら今より仲良くなれるかもしれないのにと、進学先が別々なことを知った五月は言った。
ぼくと話しているとき時々声が強張っていたことに気付いてはいた。けれど、他の奴らと話しているときよりもよっぽど落ち着いていたから……それなりに心を許されているのだと思っていた。

「馬鹿じゃないの」

ぼくはとっくに友人だと思っていたのにと口を尖らせた。


*********


訓練生時代、短い期間でも…悩んで落ち込んでいた五月の姿を知っているからか時々心配になることがある。個人戦を観ている姿を見ると、狙撃手になっても……五月はまだ攻撃手に執着があるように思えた。
ぼくに何度負けても、普通に話し掛けてこれたのは……ぼくの得物がスコーピオンだったからじゃないか。五月は弧月を使う奴らとブース外で会うと、よく気まずそうにしていた。……もしかして、もうすぐ二年が経つのに今でもそうなのだろうか。

「やっぱり……私なんか……」

耳に届いた声に遠目から五月と照屋の姿を見付ける。ああ、五月は同期である照屋が特に苦手そうだったな……傍目に見ても、今の五月は随分と落ち込んでいる。…なんで1人なんだ。荒船隊に入ってからは、見掛けるときはよく部隊の奴と一緒にいるのに。
青い顔をした五月の腕を引きながら、そういえば訓練生の頃からすぐに落ち込む奴だったと思い出す。負けず嫌いで何度も挑んで来るけれど、落ち込むと深みからなかなか抜け出せない劣等感の塊になっていた。

「久しぶりに見たと思ったら……馬鹿なの?」
「菊地原くんは厳しいなぁ…」

ほんと、世話が焼けるよね。


(20161212)
本編「菊地原くんと私B」に続きます。

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