菊地原士郎と同期の女の子 A
「えっ……もう入る部隊決まったの」

ラウンジでジュースを飲みながら何気なく先日部隊に誘われたことを話すと、五月は目を丸くしてこちらを見た。

「まだC級なのに正隊員の人から誘われるなんて……すごいね」
「まあね」
「私もがんばらないと」

ぐっと拳を握る五月に「なんでそんなに必死なの」と聞くが、困った笑みで曖昧にはぐらかされてしまった。

「それより早く対戦しようよ!」
「まだ飲み終わってない」
「はやく!」

勝てない相手によく対戦を繰り返す気になるな…。入隊してから五月は、訓練で貰ったポイントを個人ランク戦をやっては減らすということを繰り返していた。

(びくびくしながら話し掛けてくるくせに強引だよね…)

ブースに向かう五月の背中をじっと見詰める。「強化聴覚」のサイドエフェクトを純粋にすごいと言ってくれた五月の諦めの悪さを馬鹿にする奴もいるけれど……ぼくは、嫌いじゃない。

でも、今のまま続けていても五月は正隊員になれないだろうな。

「向いてないんじゃない」

対戦後、ブースから出てきた彼女にそう言うと、五月は眉を下げて「そうかもね…」と答えた。「何やめるの?」「やめないよ」と何度目か分からないやり取りをして、まだ諦めていない五月に満足する。五月の武器がスコーピオンだったら…少しは教えてやったのにな…。五月の弧月へのこだわりは異様だ。


ぼくが正隊員になった後も五月は相変わらずだった。訓練生である五月とは、自然と会うことが少なくなったけれど、時々見掛けることはあった。段々と暗くなっていく雰囲気に……ボーダーを辞めるんじゃないかと秘かに思った。

それなのに…あれほど弧月にこだわっていた五月は、いつの間にか狙撃手へとポジションを変更していて驚いた。
正隊員になった同期に喜ぶべきなのだろう……でも、少しだけ……面白くなかったんだ。

(20161207)

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