狙撃手合同訓練B
「五月先輩!隣空いてますよ!」

狙撃場で空いている場所を探していると、元気な声が私を呼んだ。
那須隊の茜ちゃんだ。人懐っこい彼女は可愛い後輩である。口元を緩めて近付くが、彼女の隣にいる奈良坂先輩に気付いてピタリと足を止めた。

(………奈良坂先輩だ)

狙撃手ナンバー2の先輩を前に少し気後れしそうになった。……あまり話したことないもの。

「五月さっさと行って」
「うっ…押さないでよ」

一緒に来た半崎くんに背中を押されて、おずおずと茜ちゃんの隣に移動する。茜ちゃんを挟んで反対側にいる奈良坂先輩はこちらをちらりと見た後、「もうすぐ始まるぞ」と時計に目を向けた。

「は、はい!」
「何緊張してんの」
「半崎くんちょっと黙って」

そういえば茜ちゃんの師匠なんだっけ……私や半崎くんと入隊時期は一緒なのに、彼は飛び抜けて狙撃が上手い。真面目そうだし…怖くないし……当真先輩より全然いい。
訓練開始の合図が鳴り、いつも通り的に向かってイーグレットを撃つ。今日は、私が一番得意な通常狙撃訓練だ。


「あー…また負けた」

訓練終了後に出た順位を見て半崎くんにそう言うと、「コーラな」との返事が返ってきた。負けたほうがジュースを奢る約束なのだ。……最近奢ってばっかり。

「奈良坂先輩!順位上がりましたー!」

隣で嬉しそうに師匠に報告する茜ちゃんは微笑ましい。今回も奈良坂先輩が1位だ。

「…………やっぱりすごいな」
「五月?先輩達二階にいるって」
「そうなんだ…行こっか」

茜ちゃんに「またね」と声を掛けて歩き出すと、隣を歩く半崎くんは不思議そうに首を傾げた。

「五月、体調でも悪いの?」
「え…元気だよ!なに?」
「負けたのに大人しいから」
「いつもそんなに騒いでないよ!」
「いや負けるとうるさいから」
「ひどいー!」

いつもなら「次は負けない」って言えるのに……おかしいなぁ。
歩く速度を速めて半崎くんの少し前に出ると、後ろから困惑した声で呼び掛けられた。だから、体調は悪くないんだって。

斜め後ろを歩く半崎くんに気付かれないようそっと視線を向ける。最初は、勝ったり負けたりしてたのに……いつからだろうか。

いつのまにか、追い着けないくらい差が開いていた。

(20161202)

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