東さんと私
「今日はありがとうございました」

作戦室へ向かう途中隣の東さんにそう言うと、「気にするな」と柔らかい笑みが返ってきた。今日は久しぶりに東さんに練習を見てもらったのだ。

「でも驚いたな」
「え?」
「五月、部隊に入ってからは練習見てくれって言うことなくなったからな」
「………そうでしたっけ?」

確かに久しぶりだと思ったけど…。

「………東さんも今は部隊組んでるじゃないですか」

見掛けるたび、いつも忙しそうだったから声を掛けづらかったのだ。そう伝えると、東さんは少し可笑しそうに笑った。

「どうしました?」
「ははっ、それもあるんだろうけど……誰かに練習見てもらう必要がなかったんじゃないか」
「え」
「競い合う友人が出来ただろう?」

東さんの言葉にハッとして、佐鳥や半崎くんや太一の顔を思い浮かべる。うん……負けたくない。

「合同訓練で仲良くしているのを見て安心したよ」
「もう……なんですかそれ」
「部隊に入ってから楽しそうだ」

そんなに目に見えて楽しそうにしてたのか……狙撃手になったばかりのころはよく相談してたから……心配してくれていたのかもしれない。

「そういえば東さん……私に部隊に入らないのかって聞いたことありましたね」
「そうだったか?」
「ありましたよ……もう一年経ったんだなぁ」

その時は、東さんも部隊には入っていなかった。
あのとき、荒船先輩の手を取らなければ私は今頃どうしていたんだろうとどうでもいいことを考える。……考えても仕方ないことだ。

「一年経ったのに……ランク戦で点取れてないの駄目ですよね」
「サポートは出来ているだろう?」
「…………自分でも点が取りたいです」

ムスリと拗ねるように口を尖らせると、東さんは苦笑いを浮かべた。

「荒船先輩が…どんどん狙撃上達していくんですよ」
「それで焦ってるのか」

焦ってる……そうなのかもしれない。あっというまに追い抜かれそうで……不安だ。
納得したような声音に顔を上げると、立ち止まった東さんは宥めるように私の頭に手を乗せた。

「……訓練を繰り返せば、すぐに撃てるようになると思ってました」
「五月は努力してるだろう?」
「でも…」

一瞬の躊躇いを誤魔化せるのは、下位の部隊くらいだ。今のところ防衛任務では失敗してないけど……今のままじゃもしものことがありそうで、怖い。

「それに悔しいじゃないですか……私が部隊の穴だと思われるのは」

強くなりたい。

壁にぶつかるたび、いつもそう思うんだ。

(20161116)

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