佐鳥くんと私
(…やっぱり向いてないのかな)

C級ランク戦ロビーを出て、そんなことを考える。
入隊時、私が志望したポジションは攻撃手。私を助けてくれた弧月で頑張りたかったのだ。
けれど、同期が次々とB級へと上がる中で、私はなかなか勝つことが出来なかった。

「五月さん!」

ミルクティーを飲みながらラウンジで休んでいると、元気な声が私を呼んでビクリと肩が揺れた。自慢じゃないがボーダーに知り合いは少ない。名前を呼ばれることは滅多になかった。

「こ、こんにちは佐鳥くん」

にこにこと笑いながら私の前に座った元クラスメイトに引きつった声が出た。去年同じクラスだった佐鳥もボーダーに入隊ていたことは知っていたが、基地内で会うのは今日で二度目だ。そもそも学校でもあまり話したことがない。
同い年の彼も正隊員の隊服を着ていて、思わずため息が漏れた。

「ため息つくと幸せが逃げて行くよ〜」

軽い調子でそう言った佐鳥に「そうだね」と苦笑すると、彼はきょとんとした表情で首を傾げた。

「五月さん元気ない?」
「うん」
「え!?」

素直に頷くと、予想外だったのか佐鳥は目を見開いて驚いた。向こうに行ってくれないかなと注がれる視線から顔を背ける。今は、一人にしてほしかった。

「うーん……悩み事?」
(いや、帰ってよ!)

親しくない人に強く言うことは出来ず、叫びそうになった言葉を飲み込む。なんなの?空気読めないの?

「あの…」
「もしかしてさっき負けたこと気にしてるの?」

適当に誤魔化そうとしたが、言われた言葉に顔が強張る。え……まさか……。

「見てたの?」

恐る恐るそう訊ねて、顔を下に向ける。やだ、恥ずかしい。ボロ負けだったのだ。じわりと視界が滲む。

「……うっ」
「え」
「うぅ…」
「五月さん!?え、ごめん!?」

溢れ出る涙を隠そうと背中を丸めて両手で顔を覆う。戸惑っているのが顔を上げなくても分かる。
諦めきれずに頑張っていこうと思うのに、思い通りにいかない自身に対する憤りと焦りが思考を埋め尽くしていく。

「私なんかがボーダーにいるべきじゃないんだ」

弱い、私なんか。


(修正20160310)

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