光せんぱいと私
「………誰だ?」

影浦隊の作戦室を訪れた私は、応対したジャージ姿の女の子の視線に思わず目を逸らした。すごく……見られてる。

「あの……ユズルくんいますか?」
「ユズルなら今いないけど………ユズルの友達か?」
「友達……えっと…同じ狙撃手で…」
「狙撃手…」
「あの………?」
「ああ!荒船隊の!」

ぽんと手を打った女の子は、「見たことあると思ったんだ」と納得したように頷いた。この子影浦隊のオペレーター……だよね。

「ユズルに用があるなら中入って待つか?すぐ帰って来ると思うけど」
「え?……でも…」
「遠慮すんなって!」

笑って手を引く彼女に戸惑いながら…部屋の中へと足を踏み入れる。他の人はいないのかな……きょろきょろと周りを見渡していると、奥のソファーの前で「こっち来いよ」と彼女が手招きした。

「……おじゃまします」
「待ってる間、菓子でも食べるか?」
「えっ……そんな…」

スナック菓子の袋を開き始めた女の子に断ろうとした言葉を呑み込む。う……どうしよう…。

「そういえば名前なんだっけ?アタシは仁礼光!高2!」
「せっせんぱいでしたか……五月晶です」
「おっ年下か!」
「高1です……あの……にれ先輩…」
「光でいいって」
「光せんぱい…」
「晶はユズルより年上だなー」
「そうですね(……名前呼び)」
「ユズルと仲良い女子がいたんだな」
「仲良くなれたらいいんですけど…」

頬を掻いて膝に置いた左手に視線を落とす。仲良くなりたいと思っているのは、自分だけかもしれない……そのことに気付くと、サッと血の気が引いた。

「……大丈夫か?顔色悪いぞ」
「す、すみません!帰ります!」

ソファーから立ち上がると、光せんぱいはきょとんとした表情で私を見上げた。

「ユズル待ってなくていいのか?」
「やっぱり迷惑だと思うので…」
「アタシは迷惑じゃないぞ」
「……ユズルくんが」

持ってきた紙袋をぎゅっと握ると、「晶はユズルにどんな用事があったんだ?」と光せんぱいが手を掴んで言った。

「美味しそうなお菓子があったので……一緒に食べたくて」

美味しいものを食べれば少しは元気出るかな……なんて短絡的だ。約束してたわけじゃない……急に来られてもユズルくんは迷惑だろう。

「光せんぱいもすみません……急に来て…」
「やっぱりユズルが来るまで待てばいい」
「で、でも…」
「もし、ユズルがいらないって言ったときはさ…」

突然来た私を受け入れてくれた先輩はいい人だ。

「アタシが一緒に食べてやるよ!」

にかりと笑ってそう言った光せんぱいに………力を込めた拳が緩んだ。


(20161006)

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