強くなりたい
スコープを覗いた先に見えた白い大きな近界民にぶるりと体が震える。もう何度も対峙しているその存在に対する恐怖が消えることはないだろう。

異世界からの侵略者――――近界民(ネイバー)
この街に門が開いたあの日の光景が脳裏にこびりついて離れない。

『五月!!』

自分の名前を呼ぶ怒鳴り声にハッと意識を戻して、イーグレットの引き金を引いた。



「お前、戦闘中に何考え事してたんだ?あ?」

眉を吊り上げて怒る隊長に体が硬直する。思わず正座した私を見て、頭上で深いため息が吐かれた。

「すみませんでした」

深々と頭を下げると「土下座はやめろ」と両脇を掴んで体を起こされたので、もう一度「すみません」と頭を下げる。
誘導された門が開いた場所は、昔私が住んでいた家のすぐ近くだった。今はもう瓦礫しかないその場所を見て、近界民が攻めてきたあの日を思い出して動けなくなってしまった。
あの日は、私以外の家族は出掛けていて……家にいた私も運よく逃げ切ることができた。後から近所に住んでいた人の多くが亡くなったことを聞いて、私は本当に運がよかったのだと知った。

「…この近くに昔住んでいたんです」

そう言って倒れている近界民の向こうに一瞬視線を向けると、隊長は気まずそうな表情で私の頭の上に手を置いた。

「そういうことは先に言え」
「はい、すみません」
「この辺に住んでいたのか……」
「あ、家族は全員存命です」

何か勘違いしてそうだと聞かれる前に口を開くと、隊長はほっと息をついて帽子を被り直した。

「…そうか、よかった」
「もしかして誰か死んだと思ってました?」
「まぁ、ボーダーにはそういうヤツ多いからな」
「……家族は出掛けていたので無事でした。私は死にかけましたけど」

ぎょっとした様子で私を振り返った隊長に「近界民に追いかけられました」と苦笑いを向けた。

「笑い事じゃねえよ」
「そうですね。怖かったです」

怖かったけど、未だに近界民の脅威が治まらないこの三門市を離れる気は起きなかった。

「荒船隊長」

イーグレットを両手で抱えて、何か言いたげな隊長を見上げる。この人に、着いていくと決めた。

「強くなりたいです」

強くなって、「私は大丈夫だよ」とこの地を離れた姉にいつか伝えたい。

20151215


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