ユズルくんと私
「すっごいねぇ!」

初めて見た鳩原先輩の戦う姿に感激して隣でランク戦を見ていたユズルくんにそう言うと、彼は自分のことのように嬉しそうに笑った。


*******

「え……鳩原先輩やめちゃったんですか?」

狙撃手合同訓練終了後、ふと近くにいた東さんに訊ねると、鳩原先輩の師匠でもある彼は言いづらそうに「鳩原はやめたよ」と言った。
最近見ないと思ったらそもそもボーダーにいなかったのか。自分のことでいっぱいいっぱいで、全然気付かなかった…。落ち込んで肩を落とすと、東さんは以外そうに目を丸くした。

「仲良かったのか?」
「仲良かった……というか……たまにお話してたくらいですけど……いい人だなって思ってて…」

初めてユズルくんと一緒に鳩原先輩の戦いを見た時、武器を正確に撃ち抜く姿に感激したんだ。試合が終わった先輩に「すごかったです!」と駆け寄ると、彼女は「私なんてまだまだだよ」と苦笑していたけれど。
鳩原先輩がやめて、ユズルくんはどうしているだろうか……鳩原先輩に懐いていたから心配だ。………彼とも話してはいない。

「五月?大丈夫か」
「はい……大丈夫です……あの、ユズルくんは…」
「絵馬?今日は参加してたみたいだけど」
「そうですか………私行きますね!半崎くんもまたね」
「帰んの?」
「うーん…ちょっと…」
「おつかれ五月」
「おつかれさまでした!」

二人と別れて、狙撃訓練場内を速足で歩きながらきょろきょろと見回す。まだいるかな…。

「ユズルくん!」

訓練場を出て行く姿を見つけて追い掛けると、声に気付いたユズルくんはきょとんとした目を私に向けた。

「ユズルくん、久しぶり…だね」
「五月さん…」
「えっと……元気?」
「うん………久しぶり」

追い掛けてどうするか何も考えていなかった。ただ……可愛い後輩が心配だった。

「ジュース!奢る!」
「え……別にいいよ…」
「久しぶりに会うし…少し話そうよ………この後何かある?」
「……暇だけど」
「じゃあ、いいでしょ?」

そう言って近くの自動販売機で缶ジュースを買って手渡すと、ユズルくんはじっと私を見た。

「………鳩原先輩のこと?」
「えっ!なんで!?」
「五月さん…鳩原先輩に懐いてたから………先輩がやめたこと聞いたんじゃないの?」
「………見てたの?」
「見てないけど………五月さんって結構分かりやすいよね」

う……分かりやすいのか。近くのソファーに座わると、ユズルくんは缶ジュースのプルタブを開けて私に向けた。

「五月さんこっち飲みなよ」
「………ありがと」
「開けられないなら缶ジュース買わない方がいいよ」
「ぐっ…」

今日はまだ何も言ってないのに……缶ジュース開けるの苦手なのバレバレだ。気を使われてしまった。

「鳩原先輩のこと……なんて聞いたの?」
「え……やめたってことしか……ユズルくんは鳩原さんと連絡とってる?」
「………ううん」
「そっか」

あの優しい先輩は、元気にしてるだろうか。二人して黙ってジュースを飲んでいると、ユズルくんはぽつりと私の名前を呼んだ。

「五月さん…」
「なぁに?」
「五月さんは………やめないでね」

その言葉にハッとして隣を見ると、眉を下げたユズルくんと目があった。そうだ……悲しくないはずないんだ。

「うん……やめないよ」

ねぇ、ユズルくん。
あの人がいなくなって………寂しいね。


(20160920)

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