鋼さんと私 B
「また来たのか」

ブースから出てきた先輩達を出迎えると、私の顔を見た荒船先輩は呆れたようにため息を吐いた。

「…来ちゃだめですか」
「課題」
「終わってます!」
「…」
「なんですか…その疑いの目は」

ムスリと頬を膨らませて、荒船先輩から顔を逸らす。前科?身に覚えがありませんね。
落ち込むと個人ランク戦を見に行く…いつだったか荒船先輩は私のことをそう言ったけれど、最近はただ荒船先輩の戦う姿を見たいから来ている。

「…鋼さんと対戦してたんですね」
「ん?ああ…もう鋼には慣れただろ」
「わかんないです」

本人を前にして言うことじゃないと思うけど…私には鋼さんが何を考えているのか分からなかった。

「あいたっ…叩かなくても…」
「せっかくだからブース入れ」
「!?……いやです」
「荒船、叩くのはよくない」
「よくないです」

黙っていた鋼さんが先輩を咎めたのを見て、すかさずその後ろへと隠れる。私、イーグレットしかセットしてないのに…いじめか。

「そういえば五月は元攻撃手なんだったか…弧月使ってたのか?」
「あ…はい。……元攻撃手って言ってもC級のときですよ」
「…今度相手してもらおうか」
「え!?私弱いです!そもそも狙撃手になってから弧月握ってないです!」

拒否しながら胸の前で両手を振ると、残念そうに眉が下げられた。え?…冗談ですよね?

「先輩達はもう対戦しないんですか?」
「ああ…少し休憩したら他の奴探してまたやるつもりだけどな」
「へー…観てていいですか?」
「勉強」
「終わったらやりますから!」

的と向かい合うことに飽きないのと同じくらい…荒船先輩の戦う姿は何度見ても飽きない。
休憩後、荒船先輩が他の人と話しているのを鋼さんと並んで離れた場所で眺める。鋼さんも知り合いっぽいのに…気を使われている。

「五月はランク戦を観るのが好きなのか?」
「…好きです」

一番は荒船先輩だけど…ここに来ればいろんな人が見れるから…かつて私と対戦した人達もその中にいるのだろう。羨ましいと思うけれど、それ以上に力強い彼らを見ていると…私もがんばらなきゃって思えるんだ。
だけど…

「どうした?」
「…なんでもないです」

だけど、どうしても鋼さんのことは羨ましいと思ってしまう。でも…きっと前とは違う理由だ。
私はポジションが違うから仕方ないけど、荒船先輩の弟子であることが羨ましい。

だって、見込まれているってことでしょう?


**************

「私………ずっと鋼さんが羨ましかったです」

鋼さんが荒船先輩のポイントを超えたって聞いたとき…ショックだったけど、すぐに受け入れることができた。何度も二人の対戦を見て、どんどん鋼さんのポイントが荒船先輩に近付いていくのを見ていたから。
サイドエフェクトのことは最近知ったけど……鋼さんが努力していたことは知っている。

羨ましかったからこそ、ずっと見てた。


(荒船先輩に勝ったんだから、もう他の人には負けないで…なんて言ったら貴方はまた困った顔をするんだろうな)

20160720
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