鋼さんと私 A
久しぶりに来た気がする。

白い隊服姿で溢れる個人ランク戦ロビーに足を踏み入れて、中央の画面を見上げる。狙撃手になってからも荒船先輩の個人戦を観に時々来ていたけれど……高校入学してからは初めてかな。
空いているソファーに座ると、対戦中だった正隊員の試合が終わった。勝利した顔見知りの個人ポイントが荒船先輩のそれを超していると知ったのはつい先日のことだ。強化睡眠記憶のサイドエフェクトを持っているということも最近知った。

(なんで……少し言いづらそうだったんだろう)

入隊してからあっという間に強くなった鋼さんが羨ましくて…荒船先輩の弟子である彼に、私はずっと嫉妬してた。
ブースから出て来た姿を見つけて手を振ると、鋼さんは驚いたように目を見開いた。

「五月?」
「おつかれさまです……途中からでしたけど、ランク戦観てました」
「ありがとう…一人か?」

キョロキョロと周りを見回す鋼さんに首を傾げる。見ての通り一人ですよ?

「あ…悪い。いつも五月がここに来るときは、荒船と一緒だったから…」
「荒船先輩に用事ですか?」
「………お礼言いたいんだ」

荒船先輩、鋼さんに何したんだろうか…。すっきりした表情で笑う鋼さんをじっと見つめると、困惑した声が掛けられた。

「どうした?」
「あ…いえ…………あの、こないだ見掛けたとき…元気なさそうだったので……気になって…」

思わず口に出してしまったが、ただの後輩に話したくはないかもしれない。

「えっと…荒船先輩なら、たぶん作戦室に…」
「オレも…」
「え?」
「オレも、五月が泣いてたの…気になってた」

ああ、そうだ…私、この人の前で泣いてしまったんだ。気まずいと思っていたことも忘れて、個人戦を観に来たのは………どうしてだろうか。



「はい」
「ありがとうございます」

ブースを離れて、ラウンジで鋼さんからひんやりとした缶を受け取る。お互いが落ち込んでいた理由は違えど、原因の出来事は同じなのだろうとなんとなく分かった。……荒船先輩は、先輩の目標を鋼さんに話したのかな。何を話そうか迷っているうちに鋼さんが先に口を開いた。

「荒船……狙撃手になるんだってな」
「…はい」
「オレ……荒船から攻撃手やめるって言われたとき、勝手に自分のせいだって思ってたんだ」
「そんなわけないじゃないですか!」
「うん。荒船にも怒られた……立ち直れたのは、荒船と来馬先輩のお陰だ」

鋼さんはそれ以上詳しくは語らなかった。きっと……聞けば答えてくれただろうけど、私が泣いていたことを気になっていたと言いながら何も聞かないでいてくれる鋼さんに無理に聞こうとは思えない。………元気になったならよかった。

「そういえば…なんで個人戦ブースにいたんだ?ここまで連れてきて今さらだけど、なにか用事あったんじゃ…」
「太一くんが…」
「太一?」
「鋼さんが今日本部に行くらしいって言ってたから…」

きょとんと目を丸くする鋼さんから目を逸らして、プルタブの口を見つめる。
個人ランク戦を観に行っても、荒船先輩はいないと分かっていたけれど……鋼さんに会えるんじゃないかって、そう思ったんだ。

(20160713)

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