荒船先輩と私 D
鳴り響いた目覚まし時計の音を止めて、重い体を起こす。着替えて窓のカーテンを開くと、ぽつりぽつりと雨が降り始めていた。ああ……今日も雨か。
………本部に行って狙撃練習しよう。撃っている間は、余計なことを考えずにすむ……ごちゃごちゃした頭の中を整理したかった。
攻撃手じゃなくなっても、荒船先輩は荒船先輩なのに………なんでこんなに寂しくなるの。

私は………

私がなれなかったものを荒船先輩に重ねて見ていたのかもしれない。



(あ……荒船先輩…)

狙撃練習も一段落しラウンジで休憩していると、少し離れた場所に荒船先輩の姿を見つけた。……いつもならすぐに話し掛けるが、気付かなかったふりをして手元のジュースに視線を落とす。一緒にいるの……鈴鳴の隊長さん?珍しい組み合わせ……。気付かれないうちに立ち去ろうと席を立とうとしたが、その前に「五月?」と声を掛けられた。あれ………来馬さん帰ったのか…。

「なんだ……来てたのか。狙撃練習か?」
「はい……あの……お話終わったんですか?」
「見てたのか…」
「あっ、いや、話は聞こえてないので大丈夫です!」
「聞かれて困る話はしてねぇよ」

目の前に座った荒船先輩にどうしようかと考えながらストローをくわえる。

「………こないだから目を合わせようとしねえな」
「え」

ハッと顔を上げると、不機嫌そうな表情が目に入った。うそ……気付かれてた…。

「自分だけ知らされなかったことが不満なのか」
「それは!……少しあります」
「あるのかよ……悪かったな」
「いいえ……あの…………聞いていいですか?」
「ああ」
「なんで……攻撃手やめたんですか?」

一緒にいて、攻撃手が嫌になったとか………そういう風に思ってたようには見えなかった。理由があるなら………知りたい。

「あー………お前が落ち着いたら話すつもりだったんだけどな」

そう言って荒船先輩は……完璧万能手を目指すこと、そしてその理論を一般化して完璧万能手を量産することを目標にしていることを教えてくれた。
ぽかんと口を開けると、軽く頭を叩かれた。

「間抜け面すんな」
「え、だって………え!?」

そんなこと考えてるなんて……思ってもいなかった。先輩は、私なんかよりずっと未来を見据えている。私は………今のことで精一杯だ。攻撃手をやめて、寂しいと思うのは………私のワガママ。

「五月、狙撃手としてはお前たちの方が先輩だ」
「はい……」
「頼りにしてるぞ」

そう言ってニヤリと笑った荒船先輩にきゅっと唇を結んだ。


コンビニで買ったビニール傘を開いて、小雨の中に足を踏み出す。荒船先輩に送って行くと言われたけど、まだ明るいからと断った。

(………すごいなぁ)

荒船先輩は…私の隊長はすごい。

「完璧万能手か…」

いつになったら、追いつくことができるのだろうか。

目標を話す荒船先輩は…私には、眩しすぎた。


(20160704/追加0708)

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