荒船先輩と鋼さん B
あの日、困惑した表情の鋼さんを置いて、私はまっすぐ帰宅した。泣いてしまったこと、謝りたいけど……会いに行く勇気はなかった。

「え……雨降ってる?」

すれ違ったびしょ濡れの人を見てそう言うと、半崎くんは「今日は1日雨の予報だろ」と呆れたようにため息を吐いた。

「傘は?」
「学校に忘れた」
「ばか……」
「学校出るとき晴れてたから忘れた………半崎くん何で教えてくれなかったの!?一緒に来たじゃん!」
「今言った」
「意味ないでしょー」

作戦室に置き傘あったかな?わざわざ戻るの面倒だな……ないと嫌だし……電話……。そう考えて先程作戦室で別れた隊長の電話番号を表示させた指は画面の前でぴたりと止まった。……電話するだけなのになんで押せないの……。

「………五月?」
「あー……近くのコンビニまで走ろうかな」
「電話しないの」
「怒られるし……いいや…」
「濡れて帰ったほうが怒るだろ」
「………半崎くん取りに行ってくれる?」
「やだ、ダルい」

訝しげに見てくる半崎くんに曖昧な笑みを返す。なんでだろう……今は電話掛けづらい。

「………ほかり先輩まだいるかな」

倫ちゃんは用事があるから私より先に出たし……あとはほかり先輩か……。

「……五月」
「なに?」
「荒船さんのこと避けてる?」
「えっ」
「今日はあまり話し掛けてなかった気がする………いつもうるさいのに」
「うるさいって………ひどい」

荒船先輩が狙撃手になると聞かされてから初めてのミーティング……なぜか先輩の顔を見れなかった。

「はぁ……オレの傘入れば?」
「いいの?」
「コンビニまでな」
「ありがと…」

出入口の前で広げられた透明なビニール傘の下へ入ると、「せまい」と文句を言われた。入れって!言った!

「傘持つ…」
「いい」
「やっぱり走ってく…」
「なんでそうなった」

「黙って入ってろよ」と言った半崎くんに口を尖らせて反対側の通りに目を向けると、見覚えのある姿が目に入った。

「鋼さん…」
「あ、本当だ…」

気まずいまま別れた鋼さんは、声を掛けるには少し距離が遠い場所にいる。

「なんか…元気ない……?」
「そう?」
「うん……そんな感じする」

元々騒がしい人じゃないけど、落ち込んでいるように見えた。荒船先輩のこと、聞いたのかなぁ。

「半崎くんはさ……荒船先輩が狙撃手になるって聞いて……どう思った?」
「どうって……荒船さんが決めたことなら別にいいけど…」
「……うん、そうだね」
「嫌なの?」
「え…」
「五月は、荒船さんが狙撃手だと嫌なのか?」
「え、私……荒船先輩が狙撃手になるの嫌なの?」
「いや聞いてるのこっち……まぁ、ポジション変わったら今までの作戦も変えないといけないけど…」
「それは別に…」

今までの戦術が使えなくなることは気にならない………じゃあ、何が嫌なの?

「私………荒船先輩が弧月振るう姿が好きなの…」
「知ってる……」
「狙撃手になるのが嫌とかじゃないの」
「うん……」
「でも……さびしい…」

スコープ越しに見る姿に……どうしようもなく憧れてた。

(20160630)

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