鈴鳴第一とランチタイム
ラウンジで昼食をとるためサンドイッチとジュースを持って席を探していると、「晶ちゃん!」と名前を呼ぶ声が聞こえた。
声の出所を探すと、少し離れた場所で手を振る別役太一の姿を見つけた。四人席に座るクラスメイトと一緒にいたのは、彼と同じ支部の三人。少し緊張しながら四人の元へと近付いて「お疲れ様です」と声を掛ける。鈴鳴第一は、昼のB級ランク戦に参加したばかりだ。にこやかに私を迎えた四人にほっと肩の力を抜いて、隣の席に腰を下ろす。あ、太一立ち上がらなくていいよ。コップ倒しそう。

「うわああっ」
「だから言ったのに!」

太一が立ち上がった拍子に手が引っ掛かってコップが倒れる。テーブルの上に広がった水を慌ててハンカチで押さえると、水を吸ったハンカチは、すぐにびしょ濡れになった。

「ありがとー晶ちゃん」
「気を付けてよね」
「太一服濡れてない?」
「平気っす」
「晶ちゃんもハンカチありがとう。汚れてない?」
「水なんで大丈夫です」

話しやすい雰囲気の人だなぁと来馬さんをじっと見ていると、「そういえば」と太一が口を開いた。

「来馬先輩、晶ちゃんのこと名前で呼んでたんすね!」
「え?……あ、ごめん!いつも太一が晶ちゃんって言ってるからつい…」

申し訳なさそうに眉を下げる来馬さんに慌てて大丈夫だと声を掛ける。全然気にしてなかった。

「ええと…五月晶ちゃんだよね」
「はい」
「五月ちゃん一人なの?」
「はい!うちの隊は夜に試合です」
「狙撃練習でもしてたのか?」
「ええ、まあ……鋼さん何で分かったんですか?」
「五月は暇さえあれば狙撃練習してるって荒船が言っていた」
「練習熱心なのね」
「すごいなぁ」

褒められたことにてれくさくなって、誤魔化すように売店で買ったサンドイッチにかぶり付いた。
荒船先輩にはよく「勉強にもそれぐらい興味持て」と言われるけど。テスト期間中にも狙撃練習をしに本部に来て怒られたことがあるので、褒められるとちょっと罪悪感を感じる。

「でも、いつも一番最初にベイルアウトしてますよね!」

笑いながらそう言った太一の言葉に空気が固まった。おまえ……言っていいことと悪いことがあるんだぞ。悪気がなければ許されると思うなよ。

「次あたったら、太一を一番に狙うね」
「なんで!?」

結構気にしてるのにわざわざ言うとか……デリカシーない。

「晶ちゃん訓練だとすごいのにね」

へらへらと笑う太一をじっと睨むが鋼さんの視線に気付いて慌てて笑みを浮かべる。トリオン体だと分かっていても、やっぱり人を撃つのは緊張する。そのせいで、訓練のときより動きが鈍くなるのだと思う。まあ、私の場合は他にも直さないといけないところもあるんだけど。あと運も悪い。

その後、鋼さん達と話している中で何度も「晶ちゃん」と言いかける来馬さんに名前で大丈夫だと伝えると、来馬さんはほっとしたように笑った。太一の行いを笑って許すくらいだから良い人だろうと思ってたけど………やっぱり良い人だ。

別れ際に「ランク戦がんばって」と声を掛けてくれた鋼さんに「すぐに追い抜きます」とにやりと返すと、鋼さんは「はっはっは」と声を出して笑った。

「本気ですよ!」
「はは、分かってるよ」

首に下げられたスマホから流れ始めた着信音に慌てて画面を確認すると、友人の名前が表示されていた。

「じゃあな、晶」

くしゃりと頭を撫でて来馬さん達の後を追った鋼さんを見送って、鳴り続けるスマホに耳をあてる。

(あれ?…名前)

鋼さんさっき名前で呼ばなかった?
気付いた途端、段々と熱くなっていく顔を空いた左手で覆った。


(おーい五月?あれ繋がってるよね?聞こえてない?)
(……………)
(おーいおーい)
(佐鳥うるさい)
(え゛)

20151221

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