佐鳥と私
引き金を引く指の感覚には、もうとっくになれた。
訓練用の的にひたすら弾丸を撃ち込んでいると、突然肩に手を置かれて、反射的にイーグレットの銃口を後ろに立つ人物に向けた。

「危ないんだけど!?」
「邪魔するのが悪い」

両手を上げて冷や汗を流す友人をじろりと睨み付けると、「何回も呼んだんだからね」と焦ったように言われた。別に本気で怒ってるわけではないけど、焦る姿が面白かったので、イーグレットは構えたままでいた。待ち合わせ場所に来ない私を迎えに来てくれたらしい。ごめんすっかり忘れてた。

「五月、全然気付かないから!」
「え、ごめんね」

集中しすぎるとたまに周りの声が聞こえなくなるのだ。隊長にも気を付けろと言われてるのに……ダメだなぁ。

「佐鳥とお昼食べに行く約束したよね!?」
「うん。どこに行く?」

ぐう…と小さく鳴ったお腹に頬を染めて、トリガーを解除する。大丈夫佐鳥には聞こえてない。
時間まで練習しようと思っていたのだが、時計を確認すると待ち合わせ時間から1時間も経っていた。なんてことだ。

「電話もしたのにー」
「え!ごめん気付かなかった。時間見てやめるつもりだったんだよ」
「それ毎回言ってる!」

涙目でそう言った佐鳥の手を引いて、訓練場を出る。うーん…待ち合わせあるときは時間見ながらやってるんだけどな。前にチームミーティングに遅れて、すごく怒られたもの。隊長こわい。

「次は待ち時間に狙撃練習しないでおくね」

そうすれば問題ないな。そう呟くと、「別にいいよ」と後ろから手を引っ張られた。

「練習して待ってていいよ」
「でも怒るでしょ?」
「また時間忘れるの前提!?怒らないよ!?」

佐鳥は、晶に悪気がないと分かっている。今日だって怒ってはいなかった。ただ、呆れてるだけで。

「そのときは、またオレが迎えに来るから!」

「五月がいつもいる場所は大体分かってる」とドヤ顔をする佐鳥にぱちくりと目を瞬かせる。
そういえば、佐鳥との待ち合わせ時間忘れるといつも迎えに来るな…。

「あ、だからか…」

わざわざ迎えに来てくれる佐鳥に甘えてしまうんだ。一人で納得して頷いている私に佐鳥は不思議そうに首を傾げた。

「なんでもない!早く行こう」

無意識に甘えていたことが恥ずかしくて、笑って誤魔化した。

(20151218)

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