穂刈篤と新メンバー
「すみません」と、深々と頭を下げる姿を狙撃訓練場の前で見掛けた。
向かいに立つ青年は、気まずそうに「気が変わったら教えて」と彼女に手を振ってオレが立っている方へと歩いて来たので、通路の隅へと体を寄せる。こんなところでナンパか?そのわりには、頭を下げていた少女の顔色は悪い。唇を噛み締めて顔を歪めた少女は、そのまま訓練場へと入って行った。彼女の方は狙撃手のようだが、見掛けない顔だな。

(いたか?あんな子)

首を傾げて訓練場へ入ると、きょろきょろと視線をさ迷わせていた少女に佐鳥が駆け寄る姿が目に入った。

「五月さん」

それが彼女の名前だった。


*********


「大丈夫なのか?五月は」

半崎と一緒に作戦室から追い出して数分が経った頃、向かい側で数学の課題を始めた荒船に思わずそう聞くと、怪訝そうな目で続きを促された。

「あー……オレらのこと恐がってるし、すぐにチームに入れない方がよかったんじゃないか?」

ある程度慣れてからの方が五月の性格的によかったんじゃないかと、今日までの様子を見て思った。もしかしたら、気弱な五月は強く言われて断れなかっただけかもしれない。

「なんだ。今更反対か?」
「いや…あの調子で防衛任務できるのかと」
「それは大丈夫だと思う」

オレと荒船の会話を黙って聞いていた加賀美は、そう言って口を挟んだ。

「晶と防衛任務に就いたことある人に聞いてみたけど、任務中は普通に話してたって言ってたよ」
「わざわざ聞きに行ったのか」
「私もちょっと心配だったのよね」

困ったように笑った加賀美に「過保護だな」と言うと、彼女は「五月をこのチームに入れて欲しいって頼んだの私だから……嫌な思いさせてごめんね」と頭を下げた。

「嫌なわけじゃないから謝るな」
「……本当?」
「本当だ。……悲しいがな。逃げられるのは」

どうやったらなつくんだと遠い目をしていると、荒船は「じゃあ、次は穂刈と一緒にここに閉じ込めるか」と真顔で呟いた。

「やるなよ。可哀想だ」
「アイツにはそれぐらいがちょうどいいと思うんだがな」
「嫌われたらどうする」
「そうなったら……悪いな穂刈、先に謝っておく」
「やるなよ」
「………半崎くんは大丈夫かな」

部屋の外に出されたとき、呆然としていた二人を思い出す。続いてるのか会話。

「半崎なら問題ない」
「そうか?」
「半崎とは普通に話せるからな」

話すって言っても一言二言だろ。まぁ、オレと荒船は恐がられるからな。一言二言でも。

「やっぱり穂刈くんの言う通り、慣れさせてからのほうがよかったのかな」
「ああ…さっきの話か」
「さっきから思ったんだが、五月はそんなに気が弱くないなだろ」
「あの子泣き虫よ?」
「恐がるしな」
「まぁ、それは否定しない」

オレと加賀美の言葉に頷いた荒船は、「だけどな…」とさらに言葉を続けた。

「ただ気が弱いだけなら、とっくに別の部隊に入ってただろ」

そういえば、五月は何人かの誘いを断ってたんだったか…。

「お前らは心配し過ぎだ」

そう言って課題に視線を戻した荒船に目を丸くした加賀美と顔を見合わせる。


一時間後、半崎の服を掴んで戻ってきた五月は、「がんばります」と小さな声で宣言した。


(20160120)

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