半崎義人と新メンバー
「あの…」

何度目かの小さな呼び掛けの後、左肩をトントンと叩かれて、ようやく自分に声が掛けられているのだと気付く。狙撃練習を中断して隣に体を向けると、同い年ぐらいの女子が「これってどうやるんでしたっけ?」と手元のモニターを指さして言った。慣れていない様子から入隊したばかりなのだろう。
白い隊服が少し、眩しかった。


*******


(…………なんでこうなった)

オレの隊服の裾を掴んで後を着いて来る五月を横目で見て、思わずため息を吐いた。
新しくチームに加わった五月は、荒船さんにびびり、穂刈先輩にびびり、作戦室では加賀美先輩にべったりで、あまり話そうとはしなかった。加賀美先輩から「人見知り」だと聞かされ、最初は優しく話し掛けていた荒船さんもなかなか馴染もうとしない五月についにキレた。目がマジで恐かった。
巻き込まれたくなくて作戦室の隅にそろりと足を動かすが、途中穂刈先輩に捕まって固まったままの五月と一緒に作戦室の外へと放り出された。「とりあえず仲良くなってこい」って何すか。なんでオレ。
呆然と立ち尽くすオレと五月に対して、「防衛任務までに戻って来てね」とにこやかに手を振った加賀美先輩に促されて、渋々歩き出したのが15分前の話だ。正直、ダルいから帰りたい。仲良くなるってどうすんだと悩んでいると、いつの間にか掴まれていた服が引っ張られた。

「………どこ行くの?」
「あー……どこ行く?」
「訓練場行きたい」
「え、撃つの?」
「半崎くんも練習しよう」

………まあ、別にいいか。仲良くなってこいと言われたが、結構普通に話してくれるし、もういいよね。っていうか何気に初めて名前呼ばれたんだけど。
狙撃訓練場へ向かう道中、「同い年なの?」とか「どこ中?」というような質問が次から次へと五月の口から飛び出した。意外と喋るな五月。ちなみに服は掴まれたままだ。なんでだ。

「先輩たちにもそんな風に話せば?」
「いやあ、年上って苦手で」
「せめて話し掛けられたら返事しなよ」
「返事は一応してる。……口パクで」
「それ返事してるって言わないから」
「口パクだよ?」
「だから何」

大体後ろ向いてるから口パクしても顔見えなくて、なんて言ってるか分からないだろ。声出して、声。

「先輩たちいい人だよ」
「うん」
「ビビらなくていいと思うけど」
「二人とも恐い」
「荒船さんの前で言ってこいよ」
「いやだよ!」

バタバタと服の裾を動かす五月に「歩きづらい」と抗議すると、手を掴もうとしてきたので「やっぱり服にして」とため息を吐いた。いきなり馴れ馴れしくなってびっくりするんだけど。

「先輩たちのこと恐がってるのによく部隊に入るって決めたね。加賀美先輩がいるから?」
「それもあるけど…」

足を止めた五月に釣られて、オレも歩みを止める。「人見知り」の五月がすぐに部隊に入ったのは不思議だった。

「倫ちゃんがいるからって、嫌だと思う人がいたら、チームに入ったりしないよ。……苦手だけど、これでも早く慣れるように頑張ろうとは思ってる」
「うん、がんばれ」

部隊に入った理由は、大したことないと言って具体的には教えてくれなかった。でも無理に聞き出そうとは思わない。理由なんて大したことなくて構わないんだ。

その後の初めての部隊での防衛任務で、五月はきらきらした目をして、荒船さんの戦う姿をじっと見ていた。

(20160119)

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