ほかり先輩と筋トレ
「荒船先輩!!」

息を切らせて作戦室に駆け込むと、一人部屋の中にいたほかり先輩は筋トレをしていた手を止めてこちらを見た。昨日持ち込んだ筋トレマシーンを早速使っていたようだ。

「まだ来てないぞ。荒船は」

一息ついたほかり先輩は、首に掛けたタオルで汗を拭きながら「そんなに慌ててどうした」と私が手に持つプリントを覗き込んだ。あの…無言になるのやめて下さい。

「………小テストか」
「そうです」
「得意じゃなかったか?英語」
「そのはずです」
「………」
「………」
「荒船に見せるのか。そのテスト」
「………教えて貰おうと思って」

過去最低の英語の点数が書かれた用紙を苦い顔をして見るほかり先輩を見上げると、スッと顔を逸らされた。

「ほかり先輩」
「悪いな」
「まだ何も言ってないのに!」
「英語は教えられねぇ」
「荒船先輩に怒られる!」
「教えて貰うつもりだったんだろ」

それはそうだけど……。数分前に届いた荒船先輩からのメッセージを確認すると、「べんきょう教えて下さい」との私のメッセージに「作戦室に来い」とだけ返信が来ていたのだ。恐い。
元々勉強は苦手なため、よく荒船先輩には勉強を教わっていたのだが、初めて私の定期テストの点数を知ったときの荒船先輩はとてつもなく恐かった。英語だけは褒められたのにこんな点数………私の唯一の得意科目だったのに!

「点数悪かったのその小テストだけか?」
「……今やってるとこ意味解んないです」
「何回も復習すれば出来るようになるだろ」
「……そうですかね」
「英語好きなんだろ?」
「……はい」

項垂れる私の頭を軽く叩いたほかり先輩は、「大丈夫だ。英語は」と慰めるように言った。英語以外が大丈夫じゃないのはいつものことです。

「それより五月」
「はい?……って、わわっ」

ずしりと手の上に乗せられた重さに慌てて腕に力を込める。は?ダンベル?……は?これ、ほかり先輩のヤツじゃないですか。

「それなら五月も使えるだろ」
「え、えーと………まあ、持てますね」

ほかり先輩がよく使っているダンベルより小型なため、女の私でも持っていられる………けれども。なんで私、ダンベルなんて持たされたんですかね。

「少し力をつけた方がいいぞ。こないだ部屋の掃除してたとき荷物持ってよろけてただろ」
「トリオン体になれば重い荷物くらい楽勝です」

そう言ってダンベルを返すが、また手のひらの上に戻された。「軽すぎるんだ。オレには」とか言われても困る。半崎くんにあげればいいと思うよ。
暇だったので、荒船先輩が来るまでほかり先輩の隣で仕方なく貰ったダンベルを上げ下げしていると、作戦室に入って来た荒船先輩に変な目で見られた。

(20160110)

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