荒船先輩と私 A
「どうしてあんなこと聞いたんですか?」

防衛任務が終わった後、家まで送ってくれるという荒船先輩の隣を歩きながらそう訊ねる。

「あんなこと?」
「ほら、あの……攻撃手に戻りたいのかって」

私の答えが分かっていたなら、聞く必要のない質問だ。私の疑問に防衛任務前のやり取りを思い出したのか「ああ」と頷いた荒船先輩を見上げて答えを待つ。

「お前、よく弧月見てただろ」

遠くを見ながらそう指摘した先輩に目を見開く。そんなに見てただろうか。「見てないです」と言いかけて口を紡ぐ。嘘をついてどうするの?私の取り繕った嘘なんて、先輩はすぐに見破る。

「見てましたね」
「素直かよ」

くくっと笑った荒船先輩に口を尖らせて「弧月好きなんです」と正直に答えた。だって好きなんだもの。

「あとすげえ落ち込むと、個人ランク戦観に行くの自分で気付いてるか?」

最近はそんなことなかったんだけどな。と言う先輩に「え!?」と大きな声が出た。夜なのに大声出しちゃったよ。

「攻撃手のときのクセが抜けてないんだと思った」
「………そうかもしれません」

前はよく正隊員の人の対戦を観戦したりしてたし。

「ついでに、ランク戦観に行って昔負かされた奴に睨まれたりしてるよな」
「なんで知ってるんですか!?」

え?なにその見てたかのような言い方…。「偶然見てた」と言う先輩に疑いの目を向ける。いや、先輩攻撃手だからいてもおかしくないけど!

「逃げたなんて言われて、攻撃手でもっとがんばれなかったのかとか考えてんだろ」
「先輩恐いんですけど」
「あ?」
「すみません」

なんで私が謝らないといけないんだ。私の考えていたことを当てる先輩恐い。多分荒船先輩が見たのは「やめたと思ったら狙撃手に逃げたの?ランク戦見たけどB級なっても全然隊の役に立ってねぇな」という感じのことを言われたときだと思う。話し掛けられたとき「誰でしたっけ?」と言ったらすごい恐い顔してたので覚えてる。他にもいろいろ言われた気がするけど、よく覚えていない。そう先輩に伝えたら「どっちだよ」と呆れられた。

「よく覚えてない奴の言うことなんか気にするな」
「うーん…まあ、役に立ってないのは事実ですし」

むしろ迷惑かけてる気もする。と言うと、無言で頬をつねられた。ちょ……捻らないで痛い!

「ちなみに攻撃手に戻るって言ってたら殴ってた」
「ええええ…」

暴力的だ。やっぱり荒船先輩も私は攻撃手向いてないって思ってるのか。

「おい、勘違いするなよ」
「へ?」
「お前が本気でそう言ったら止めたりはしねえよ。そのときは俺が教えてやってもいい。……けど今回は違うだろ。毎日のように練習して、狙撃が楽しいって言ってるのに、今やめたら………後悔するだろ」

「中途半端にするな」と荒船先輩は静かに言った。

「失敗したことを反省するのはいいが、だから自分は駄目だと卑下するな。………お前は、ちゃんと強くなってる」

まっすぐに私を見てそう言った荒船先輩にきゅっと唇を結ぶ。
隊に誘われたあの日を思い出した。

――――――この人の近くで、強くなりたい。

あの日確かに私は、そう決意したんだ。

(20160109)

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