荒船先輩と私
作戦室に入ってすぐ、中にいた荒船先輩に無言で頭突きをすると、「何しやがる」と頭を掴まれた。いたいいたい。私、生身。先輩、トリオン体。
頭に圧迫感がなくなったため、すぐに荒船先輩から離れて半崎くんの後ろに隠れると、「…ダルイ」とぼそりと呟かれた。そんな面倒くさそうな顔しないでよ!ほかり先輩いないんだもん。加賀美先輩のトコ行けって?倫ちゃんを盾にはできないよ!

「五月遊んでんな」
「遊んでないです!」

なんで怒られたんだ。ムスリと頬を膨らませていると、学生服のほかり先輩が最後に作戦室に入って来た。

「遅かったな」
「今日提出の課題があるの忘れてたんだ」
「ギリギリっすよ」
「いいだろ。間に合ったんだから」

時計を見て、「そろそろ行くか」と言った荒船先輩に私もトリガーを起動して、戦闘体へと換装する。
倫ちゃんと少し話してから作戦室を出ると、先に行ったと思った荒船先輩が入口の前で待っていてくれた。ほかり先輩と半崎くんは前を歩いている。
荒船先輩の斜め後ろを歩いていると「鋼と本部まで来たんだってな」と声を掛けられた。コウさんもう荒船先輩に言ったの!?「荒船が~」と言っていたから報告しそうだと思っていたけど……ついさっきの出来事なんですけど。

「たまたま道で会って………って荒船先輩余計なこと言ったみたいですね」
「なんの話だよ」
「私に構ってやれーって言ったって聞きましたけど」
「ああ……言ったな」
「そういうのいいです。コウさん真に受けてましたよー」
「言っとくが冗談で言ったわけじゃねえぞ」
「え、本気!?」
「お前はもっといろんな奴と話すようにしろ」
「えー!」

だからって、なんでコウさん…。先輩今までそういうこと言わなかったのに。

「五月は…」
「先輩?」
「……五月は、攻撃手に戻りたいのか?」

唐突にそう言った荒船先輩に一瞬足が止まった。どうしてそう思ったのか分からない。

「鋼が羨ましいか」

私に視線を向けて言われた言葉にギクリと肩を揺らす。なんで、なんで。歩く速度が落ちた私の腕を引いて歩く荒船先輩の後ろ姿を呆然と見上げると、先輩は「こないだいいなぁって言ってたよな」と言葉を続けた。こないだ……コウさんの個人ランク戦を一緒に観たときのこと?………聞こえてたんだ。

「コウさん、入隊したばかりなのに……もう私より強かったです」

弧月を奮う姿に攻撃手だったころの情けない自分を思い出して………羨ましかった。羨ましいと思ったけど…私、攻撃手に未練あったのかな。本当に、そうなのかな。そう心の中で自分自身に問い掛けていると、眉を潜めて唸る私に「防衛任務終わってから考えろ」と声が掛けられた。荒船先輩が悩ませるようなこと言うからですよ。

「それに、そんなに悩むことじゃねぇだろ」
「……そうですかね」
「五月は狙撃手になったこと後悔してんのか?」
「してないです」

荒船先輩の問い掛けにきっぱりと首を横に振る。それだけは、はっきりと答えられる。

「じゃあ、そういうことだろ」

笑ってそう言った荒船先輩の言葉にもやもやとした思考が吹き飛んだ。
そうか………私、攻撃手に戻りたいわけじゃないんだ。昔の感情に引きずられて、コウさんを羨ましいと思っても……狙撃手をやめたいとは思わない。

「私は狙撃手だから」

自分自身に向かってそう呟いてから、腕を離して先を行く荒船先輩の後を追いかけた。

(20160108)

prev next
[back/bkm]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -