B級ランク戦B
「やられた…」

緊急脱出を告げる音声が聴こえ、気がついたら作戦室のマットの上に落ちていた。呆然としかけるが、まだ終わっていないんだからと気を取り直して倫ちゃんと半崎くんの元へ向かう。

「今どうなってる!?」
「荒船さんが弧月で空閑の相手してるところ」

半崎くんの横に並んで画面を覗くと、倫ちゃんの「奇襲警戒!」の声が響いた。諏訪隊バックワーム使ったのか。
その後も固唾を飲んでランク戦の行方を作戦室で見守る。ゆーまくん…強いなぁ。「負けないよ」なんて言っておきながら、すぐ緊急脱出してしまったよ。
結果、大差をつけて玉狛第2が勝利を納めた。悔しいけど、今回は玉狛がうまかった。

でも落ち込んでいる暇はない……B級ランク戦はまだ始まったばかりなのだ。


*********


「五月、個人戦しに行くけど来るか?」

ミーティング後、作戦室を出ようとした私を荒船先輩はそう言って呼び止めた。先輩の個人戦はよく観るけど、わざわざ聞いてくるのは珍しい…。

「ゆーまくんに負けて熱くなりました?」
「うるせえ」

行くのか行かないのか。もう一度私に聞いて来た荒船先輩に少し考えてから頷く。狙撃練習しようと思ったけど…わざわざ誘ってくれたのだ。断れるわけないじゃない。

ランク戦ロビーで緑川くんに絡む荒船先輩を黙って眺める。緑川くんは年下だけど…どうやって接したらいいのか悩んでいる子だ。

「さつき先輩、さっきぶり」

右手を上げて近づいて来たゆーまくんに私も手を上げて応えると、三人の目も私に向けられる。う…こういうの苦手。

「白チビ、五月と知り合いだったのか」
「ココアを一緒に飲んだ仲だよ」
「どういう仲なんだ」

冷や汗をかきながら少し離れた場所で小さく頭を下げた三雲くんに私も頭を下げる。ゆーまくんと雨取ちゃんの隊長だからどんな人かと思ったらいい子そうだ。

「また荒船さんについて来たのかー?」
「…………そうですね」
「あからさまに目をそらすのやめようぜ」

けらけらと笑う米屋先輩に古寺くんは焦ったように「五月さん人見知りですから」とフォローする。荒船先輩の個人戦を頻繁に観に来ていたため、ランク戦ブースによくいる攻撃手は一応顔見知りだが、米屋先輩は誰にでもフレンドリーすぎて少し苦手だったりする。…いい人だとは思うけど。
荒船先輩、緑川くんと対戦するのかな?と思っていると、突然のざわめきが辺りに広がった。

「鋼さん…」

戸惑った表情でやってきた鋼さんは荒船先輩と話している。三雲くんに荒船先輩が攻撃手をやめる原因となった人だと鋼さんのことを紹介した古寺くんにムッとしたが、噂については放っておけと言われているので黙って鋼さんとゆーまくんの会話を見守る。

鋼さんとゆーまくんの個人ランク戦が終わって玉狛の二人が帰った後、荒船先輩達がそれぞれ個人戦をするのをソファーに座って眺める。隣に座っている古寺くんは、真剣に個人戦を観る私に少し驚いた様子で段々話し掛けてこなくなった。

ここにいると、隅っこに隠した攻撃手の私の心が熱を帯びる。
いつか、弧月を教えて下さいーーそう荒船先輩に言った決意を思い出す。

でも、まだその時じゃない。

まだ狙撃手でいたいって、狙撃手の私が笑って言うから。


(20170704)

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