荒船隊D
被害が出た市街地の瓦礫の撤去を手伝いながら、今回の被害の状況を間近で目にする。民間人に死者が出なかったものの…ボーダーには死者行方不明者ともに出ている。
あの日、戦いを終えて家に帰った私を両親は泣きながら出迎えた。
放置主義だった私の両親が初めて「ボーダーをやめてほしい」と言ったことに胸が痛くなった。

「やめないよ」

はっきりとそう伝えると、泣き顔が驚いた表情に変わった。私が自分の意思をはっきりと両親に伝えたのは、ボーダーに入隊したとき以来だったかもしれない。

「五月、向こう手伝いに行こう」
「うん」

作業を終えた半崎くんに声を掛けられて、二人で離れた場所で作業している先輩達の元へ向かう。
半崎くんは親に何か言われなかったのかな…。帽子を被った後ろ頭をぼんやりと眺める。一度作戦室に戻ったとき、半崎に黙って頬をつねられたのはなんでだろうか。ほかり先輩には「がんばったな」と頭を撫でられ、倫ちゃんには「おつかれさま」と手を握られた。荒船先輩は……何も言ってはくれなかった。



「今日もおつかれさま」

空が夕焼けに染まる頃、作戦室に戻ると倫ちゃんにより解散が言い渡される。明日から学校始まるから今日はゆっくり休んでね。帰る準備をしながら言った倫ちゃんに習って、私もロッカーに入れておいた鞄を取り出す。

「五月、行くぞ」

いつも送ってくれるときのように荒船先輩は私にそう声を掛けた。もしかして…ついに怒られるのだろうか。眉を下げて倫ちゃん達を見ると、「行ってこい」と言うように手が振られた。
荒船先輩を慌てて追い掛けると、作戦室を出てすぐのところで待っていてくれた。黙っているのが、なんだか怖い。そのまま歩き出した背中に続くと、基地を出る頃ようやく先輩は口を開いた。

「また悩んでんのか」
「うっ…」
「穂刈達も心配してるぞ」
「………分かってます」

悩んでいると、すぐに気付いてくれる。私の大好きなチームメイト達………いつも私は、与えてもらってばかりだ。

「強くなりたいです」

悩んだときに呪文のように言う言葉を荒船先輩は黙って聞く。
強くなりたいーーーこの気持ちに終わりなんてきっと来ない。目的がはっきりしない、あやふやな願望だ。

「俺もだ」

別れ際、そう言った荒船先輩をじっと見詰める。

自分がもっと強ければーーー今そう思っているのは私だけじゃない。

それもちゃんと分かっているんだ。


*********


大規模侵攻から1週間が過ぎた頃ーーボーダーはマスコミに向けて記者会見を開いた。

「取り返しに行きます」

大人達に責められた男の子が堂々とそう言った姿をテレビ越しに目にして…少しだけ、心が和らいだ。

(20170629)

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