大規模侵攻B
轟音の後、緊急脱出の光が見えた。人型近界民は同時に三ヶ所へ正確に攻撃をしたらしく、ほかり先輩と半崎くんが緊急脱出したとの倫ちゃんの焦る声が遠くに聞こえる。
今はトリオン体なのに、引き金に掛けた指先が冷たくなっていく気がした。

私………なんで。

私が緊急脱出していない理由は一つしかない……撃てなかったのだ。

まだ見つかっていないとはいえ、私も移動した方がいいと頭では分かっていても、足が縫い付けられたように動かない。恐怖が体を覆っているかのようだ。

「うっ……撃たなきゃ」

思考とは正反対の言葉が口から出て、ぐるぐると目の前が回る。恐怖でパニックを起こしていることに自分では気付けなかった。

「晶!撃っちゃ駄目!!!」

強く叱咤する倫ちゃんの声が混乱していた思考を落ち着かせた。そう、撃っちゃ駄目…駄目…。
固まった指を恐る恐る引き金から離すと、耳元の無線からほっとため息が吐かれたのが聞こえた。

「ごめんなさ…」
「反省は後!一旦荒船くんと合流して!」
「…五月了解」

ふらついた足を叩いて、ビルの階段を急いで下りる。
こんなところで怖じ気付いてどうする。なんのために、ボーダーに入ったの……近界民と戦うためだ。そうでしょう?

「あれが、人型近界民…」

鬼みたいだ。

スコープ越しに見たとき、まずそう思った。角が生えてたけど、私達と同じような外見…それなのに、一目見た瞬間敵わないと思ってしまった。恐怖で、足がすくんだ。
今回は撃ってたら私も緊急脱出してたかもしれないけど…だからって撃たなくてよかったなんて思えない。

もしかしたら、次も撃てないかもしれない。

人型近界民ではなく、今はそう考える自分が怖い。
倫ちゃんの指示を聞きながら足を進めていると、やっと目の前にいつも追い掛けている背中を見付けた。振り向いた荒船先輩は少し不機嫌そうだ。…そうだよね…怒ってるよな。唇を噛んで下を向くと、荒船先輩は「終わってねえぞ」と帽子を被り直した。

「まだ泣くな」

そう言った荒船先輩の厳しい声に顔を上げて、「泣いてません」と強がってこっそり鼻を啜った。

私はまだ終われない。


(20170625)

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