佐鳥くんと私 B
「あー!!負けた!」

合同訓練で隣で撃っていた佐鳥くんは、私の結果を見てそう声を上げた。隣のモニターを覗き込むと、私より一つ数が多い数字が表示されていた。

「そんなに変わらないよ」
「でも!五月さん狙撃手になったばかりなのに!」
「たまたまだよ」

そう言いながらも弾が的の中心を撃ち抜いたときの高揚感を思い出して頬が弛んだ。どうしよう……狙撃楽しい。

「たまたまでもすごいよ。オレが教える隙がまったくない。銃を扱い慣れない五月さんに手取り足取り教える予定だったのに!」
「うん、なに言ってるのかな」

狙撃手として参加した二度目の合同訓練の結果は良好。前回佐鳥くんに敵わなくて、悔しかったのでたくさん練習した。目の前で顔を手で覆っている佐鳥くんに密かにドヤ顔を向けていると、佐鳥くんの向こうに見知った顔を見つけて自然と顔が綻んだ。

「東さん!」
「ん?あ、東さん聞いて下さいよぉ」

私の声に後ろを振り返った佐鳥くんの少し落ち込んだ様子に近付いて来た東さんは苦笑いを溢した。

「佐鳥負けてたな」
「たまたまです」
「まあ、これなら五月もすぐにB級に上がれるだろうな」
「ありがとうございます!」

頭を撫でる東さんにへらりと笑っていると、佐鳥くんが目を見開いて体を震わせた。

「いつの間にそんなに仲良くなったの!?」
「たまに練習見てもらってるんだ」
「なにそれ聞いてない」

「東さんズルイっ」と口を尖らせる佐鳥くんに首を傾げる。ズルイってなに。

「佐鳥…お前なぁ」
「あ!」

たどり着いた答えに思わず声を上げると、二対の目が不思議そうに私を見ていた。

「わああっすみません話遮って!」
「大丈夫だよ。どうかしたか?」
「分かったってなにが?」

きょとんとした表情を浮かべる佐鳥くんに頷いて、私の頭から離れた東さんの手を掴む。

「佐鳥くんの頭も撫でてあげてください」
「ええ!?なんでそうなったの!?」
「……頭撫でられたいのかと」
「違うからね!」
「え、違うの?」
「違うよ!」

てっきりそうだと思ったんだけど…。なら、何なんだろうと顎に手をあてて考える。もごもごと呟く佐鳥くんの言葉はよく聞き取れない。

「ええっと……つまり…オレも五月さんと仲良くなりたいなー…なんて」

顔を赤くして言葉を紡ぐ佐鳥くんにぽかんと口を開ける。隣にいる東さんのくすくすという笑い声を聞きながら「うーん…」と言葉を濁す。

「私はもう友達だと思ってたんだけど」

改めて口に出すのは気恥ずかしさを感じる。

私だって、仲良くなりたいんだよ。

20151215

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