荒船隊C
「大規模侵攻?」

ミーティングで告げられた言葉が信じられなくて繰り返すと、荒船先輩は深刻な表情で頷いた。
えっ…なんで近々侵攻が来るって分かるの?

「迅さんか」
「ああ」
「……五月分かってる?」

ほかり先輩が出した名前にポカンと口を開けていると、三対の呆れた目が向けられる。

「わ、わかってます…よ…」

顔を引きつらせながら隣の倫ちゃんに視線を向けると、「玉狛支部の迅さんよ」とこそりと教えてくれた。

「玉狛支部の迅さん!です!」
「うわ…ずるした」
「迅さんの未来視のサイドエフェクトな」
「えええすごい」

玉狛支部といえば、最近知り合った雨取ちゃんとゆーまくん、そして完璧万能手の木崎さんしか知らなかったけど……すごい人ばかりだなぁ。感心している私をじっと見る荒船先輩にハッとして「知ってますよ!」と手を振る。

「そんなことより近界民の侵攻だ」
「………本当に来るんですね」

四年前のことを思い出して膝の上で固く手を握る。また…あんなことが起こるのだろうか。

「でも、前とは状況が違う」

力強く言った荒船先輩の言葉に俯いていた顔を上げる。

「ボーダー隊員の数は四年で大分増えた。全員、日々の訓練や防衛任務で備えは出来ている」

ボーダーは強くなった。

「俺たちもボーダー隊員になったんだ」

ボーダーで訓練してきた自分を信じろと隊長は言うと、侵攻に備えて変わるシフトについての説明が始まった。
荒船先輩の話を聞いて自信を持てた一方で、不安に震える私がいる。

四年前の大規模侵攻……逃げている途中、子供の泣き声が聞こえた。恐怖に悲鳴を上げる大人の姿を見た。……血溜まりに倒れる人の姿を見た。
もう、あんな光景を見たくなくてボーダーに入ったのになんて様だ。

私はもう、近界民に怯えるだけの子供じゃないのに。


(20170606)

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