後輩と私
「五月先輩はどれくらいでB級上がったんすか?」
「えーと…1ヶ月くらいだったかな」

自身がC級だったころを思い出しながら夏目ちゃんの問いに答えると、彼女は顔を歪めて「やっぱり先輩もすごいじゃないすか」とため息を吐いた。

「アタシ…B級になれる自信ないっす」
「そんなことないよ!夏目ちゃんならなれるよ!」
「先輩、チカ子と同じこと言ってる…」
「えっ…そうなの?」
「なんで照れるんすか」

今日は雨取ちゃんは玉狛支部で師匠と練習しているそうだ。会えなくて残念。偶然会った夏目ちゃんと少し話してから……一人でC級ランク戦ブースへ向かう。狙撃練習に来ていた夏目ちゃんは、きっと正隊員になれる。「練習した分だけ上手くなる」って前に東さんが言っていたもの。

やっぱりC級多いなぁ。入隊したばかりだからみんな張り切っているのだろうか……今日はいつもより本部の中が白い気がする。

「あれ?」

白い隊服にぽつんと黒が混じっているのが視界に入った。一瞬正隊員かと思ったが、その顔には見覚えがある。

雨取ちゃんのチームメイトだ。

こないだの入隊日のとき、狙撃場に来ていたうちの一人……白い髪が印象的な子。自販機を見上げる彼は「今日は何を飲もうか」とブツブツと独り言を口にしていた。なんでこの子だけ隊服黒いんだろ…色が違うがデザインは訓練生のものと同じだ。でも、黒に白い髪はよく映える。

「ココアはどうかな?」
「ん?」

なんとなく気になって後ろから話し掛けると、振り向いた彼はきょとんと首を傾げた。私を捉えた赤い眼は、誰だと言いたげにじっと見詰めてくる。あ、どうしよう……今更ながら緊張してきた。

「えっと……雨取ちゃんと同じチームの子だよね?」
「ふむ…チカの知り合いでしたか」
「狙撃手なの。五月晶です」
「ご丁寧にどうも。空閑遊真です」

頭を下げながら名乗ると、彼も同じように頭を下げた。丁寧な子だ。

「くがくん」
「遊真でいいよ」
「…ゆーまくん何買うか迷ってるならココアはどうかな」
「ココアって自販機にも売ってるのか」
「これだよ」
「じゃあ今日はこれを買おう」

ゆーまくんは私が指をさしたボタンを押して、出て来た缶を取り出すと「昨日買ったのより小さいな…」とぽつりと呟いた。うん……ココアってジュースとかより小さいね。なんかごめん。

「さつき先輩もココア?」
「うん」

ココア以外買ったことあるの?って聞かれたことあるけど……あるよ…………たぶん。

「甘いな」
「ココアだからね」

近くのソファーに座ってゆーまくんと一緒にココアを飲んでいると、近くを通る人から視線を向けられるのを感じた。後輩とココア飲んでるだけなのになんで。白い悪魔ってなんだ。………というかゆーまくんこんなところで私とココア飲んでいていいのかな…気を使わせてないかな…。ちらりと横を見ると、こちらを見ていた赤と視線がかち合う。

「…ゆーまくんは個人戦してたの?」
「そうだよ。今は休んでるとこです」
「私といて大丈夫?」
「さつき先輩こそいいの?」
「私は……ゆーまくんと話してみたいと思ったから」

そう、ゆーまくんと話してみたいと思った。
まだC級隊員なのに……強い雰囲気があるから。

「……ポイントすごいね」
「そう?」
「うん」

視界に映ったゆーまくんの手の甲のポイントに思わずそう言うと、彼は早くB級に上がりたいのだと笑った。
次に会うときは、B級ランク戦のときかもしれない。そう思えるほど、彼からは余裕を感じられる。

私がC級だった頃とは大違いだ。

ココアを飲み終わると、また個人戦をするというゆーまくんに着いて目的地だったC級のブースへと足を踏み入れた。
他の試合が目に入らないくらい…自分と同じ訓練生を圧倒するゆーまくんの戦いに見入ってしまった。
彼が正隊員になったら、きっと手強い相手になるのだろう。

部隊として合間見えるのは、思っているよりもすぐかもしれない。


(20170523)

prev next
[back/bkm]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -