ボーダー正式入隊日
1月8日ーーー
年に三回あるボーダー正式入隊日の内の1回目が今日この日である。
今年はどんな子達が後輩となるのだろうかと楽しみな一方、入隊指導の手伝いに連れていかれることになった不安が強い。なんで私だけ?
「荒船先輩帰りたいです」
「まだ始まってもいねえだろ」
佐鳥が狙撃場を離れてしばらく経つ。そろそろ入隊式は始まっているだろう……狙撃手希望の後輩達がここに来る時間も近付いている。私…教えるなんて無理です。そう東さんにぼやいたら、「なんとかなるさ」と苦笑しながら頭に手を置かれた。あれ?期待されてない…?
「女子がいたら五月がいることで安心するさ」
「…………いなかったら」
「がんばれ」
「東さん!?」
「絵馬に接するみたいにすれば大丈夫だ」
「後輩好きなんだろう?」と言って頭を撫でる東さんにコクリと頷くと、安心したように笑って隣で荒船先輩と話始めた。
「五月はもっといろんな人と話したほうがいいと思うんです」
東さんと話している中でそう言った荒船先輩の声が耳に入ってきた。……荒船先輩はよくそういうことを言う。
複雑な気持ちになって会話に口を挟もうとするが、出入口からざわめきが聞こえてきゅっと唇を結ぶ。
佐鳥が新入隊員を連れてきたんだ。
***
今期は女の子は二人か…。イーグレットで訓練を始めた狙撃手志望の後輩達の背中を眺めていると、女の子の一人が戸惑ったように東さんに声を掛けた。撃った後、走らなくていいのかと訊ねた彼女に驚いた。もうそんなこと教えてもらってるんだ……ちゃんとした師匠いるんだな。師弟関係って少し羨ましい。
しばらく訓練をした後、佐鳥が狙撃用トリガーの説明をし始めたのをなるほどと後ろで頷きながら聞いていると、荒船先輩に肘でつつかれた。だ、だって私イーグレットばっかり使ってますもん。アイビスは防衛任務で装備することもあるけれど、ライトニングはあまり使ったことがなかった。
違いだけだ忘れないようにしないと…と睨みを利かせる荒船先輩の視線から逃れるようにアイビスを試し撃ちしようとする小さな背中を見つめる。……アイビス大きいな。
合図と共に発射された弾は、ものすごい音を立てて的に………あれ?
………基地に穴が空いている。
(20170425)
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