菊地原くんと私D
「あれ…菊地原くん?」

前に見えた後ろ姿に声を掛けると、久しぶりに見る不機嫌そうな顔が振り向いた。あれ?遠征は?

「帰って来てたんだ」
「昨日ね」
「なんで機嫌悪いの…」

せっかく久しぶりに会ったのに…と口を尖らせると、菊地原くんはバツが悪そうに頭を掻いた。

「昨日ちょっと色々あって」
「ふーん」

帰って来てすぐ模擬戦でもさせられた?学校の課題いっぱいだされた?いくつか頭に浮かんできたが、菊地原くんは答える気はなさそうだ。

「五月は何してるの」
「狙撃場行くとこ」
「暇なの?」
「今ランク戦中なんだけど!」
「ああ…そうだっけ」

A級の菊地原くんには関係ないけど、友達が出てるんだから少しは気に掛けてほしいな。「こないだ諏訪さん落としたんだよ」なんて報告しても聞いているのかいないのか…気持ちの籠っていない「よかったね」という返しに私まで不機嫌になりそうだ。

「…………一人なの?」
「うん」
「珍しいね」
「そうかな?……菊地原くんも歌川くんと一緒じゃないんだね」
「いつも一緒にいるわけないでしょ」
「私もいつも誰かと一緒にいるわけじゃないよ」

とは言っても、今日は風邪気味な半崎くんは先に帰っただけなんだけど。

「狙撃練習は一人でも出来るから」
「………今日はやめておけば」
「えっなんで」
「一人なんでしょ」
「ああ…あとからうちの先輩たちも来るって言ってたから」
「…………」
「菊地原くん?」
「…………」
「顔怖いよ!」
「紛らわしいこと言わないでよ」
「…心配してくれたの?」
「してない」
「えへへ」
「してないって」

眉間に皺を深くした菊地原くんにへらりと笑うと、「ミーティングあるから」と私に背中を向けた。ああ……そうだ忘れてた。
呼び止めると、長めの髪が振り向き様に揺れる。

「おかえり」

近界がどんなところか私は知らないけれど……無事に帰って来た姿が見れて安心したよ。


(20170410)

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