シスターコンプレックス
「あなたは弱いから、私が守るの。」
幼い頃から姉はいつも私にそう言っていた。
「私のことはもう気にしなくていいから」
そう言った私に姉は少し寂しそうに笑った。
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「へぇ、お姉さん結婚するんだ」
「そうなんですよ。なんか私に遠慮して、ずっと先伸ばしにしてたんですけど、やっと決めたみたいで」
訓練場で偶然会った東さんの隣に座って、奢ってもらった缶ジュースをゴクリと飲み干す。佐鳥くんに紹介してもらった東さんには、時々訓練を見てもらっていた。落ち着いた優しい雰囲気になんでも話してしまいそうになる。
「私のことが心配だって言うんですよ」
プロポーズされた報告をしてきたとき泣いて喜んでいたのに、すぐに結婚することを姉は拒んだ。今思えば、私がボーダーに入りたいと言った直後だった気がする。
「妹思いのいいお姉さんなんだね」
「はい!大好きです」
年が離れていたからかとても可愛がってくれている。共働きの両親に変わって、いつも私の面倒を見てくれた。自分が妹を守らなければという使命感が姉の中にはあったように思う。
「姉さんは……私がボーダーに入るの反対してました」
弱い私には無理だと、最初から決めつけるから少しケンカしてしまった。両親は放任主義というやつで、私がやることに口を出すことは今までほとんどなかったけれど、そのかわり姉は私に対して過保護だった。
「お姉さんが心配する気持ちも分かるよ」
「そうなんですけど…。ボーダーのことだけじゃないんです。……部活とか、習い事とか、私が何をやるかは全部姉が決めてました」
自分の意志が弱くて、何も出来ない私の代わりに。
ボーダーへの入隊は、初めて自分で決めたことだった。
「実は、攻撃手で上手くいかなくて……やっぱり姉の言う通りなのかなって落ち込んでるときに狙撃手に誘ってもらったんです。だから……佐鳥くんには感謝してるんです」
「そうか、佐鳥に会ったら言っておくよ」
「絶対言わないで下さい!」
「ははっ」
笑いながら自然と頭に置かれた手にびくりと肩が揺れた。
「悪い……嫌だったか?」
「いいえ!是非撫でて下さい」
久しぶりの感触に驚いたけれど、頭を撫でられるのはけっこう好きだ。小さい頃は、姉がよく頭を撫でてくれた。
頭を向けた私に苦笑して、東さんは離した手をまた頭の上へと下ろした。
「結婚式が終わったら…三門市を離れるんです」
いつも私を守ってくれた姉がもうすぐいなくなる。
「五月は寂しいんだな」
「寂しいです」
「素直だな」
くすくすと笑い声を聞きながら、頭を揺らす感触に目を細めた。
20151215
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