木虎ちゃんと私
あれ、留守かな?
インターホンを押しても誰も応答しない嵐山隊作戦室の前で、どうしようかと唸る。佐鳥に土日にやる課題を持って来たのだ。こないだ佐鳥も持ってきてくれたから来たのに…またメールしよう。そう思って引き返そうとした瞬間扉が開く音が通路に響いた。
「五月先輩、何かうちに用ですか?」
「木虎ちゃん!」
誰もいないと思ったよ!「どうぞ」と木虎ちゃんに促されて作戦室に足を踏み入れるがやっぱり他の人影は見えない。
「佐鳥に用があるんだけど、来るかな?」
「ああ…さっきまでいましたよ。五月先輩に会いに行ってくるって出ていったんですけど…」
「えええ…すれ違い」
「課題渡すね」ってメールしたのに……え、どういうこと?取りに行ったの?……そういえば作戦室に届けるとは言わなかったかも。
「ごめん…待たせてもらってもいいかな?」
「いいですよ。お茶でいいですか?」
「気を使わなくてもいいよ!」
「お茶でいいですね」
「う、ありがとう」
ソファーに座って木虎ちゃんを待ちながら佐鳥にメールを送ると、「すぐ行く!」と返信が帰って来た。とっきーも付き合わされたのか……ごめんねとっきー。
「佐鳥戻って来るって」
「そうですか。よかったですね」
にこりともしない木虎ちゃんに落ち込みながらお茶に口をつけるが熱くてすぐに舌を離す。ひりひりする…。
「痛い」
「熱いですよ」
「……熱かった」
もう少しはやく言ってほしかったな。ふーっと湯気に息を吹き掛けていると、「五月先輩猫舌ですね」と向かいに座った木虎ちゃんは自身のコップに口をつけた。おお…木虎ちゃんは飲めるの…すごい。
「そういえば木虎ちゃん、イレギュラー門に遭遇したんだって?新種のトリオン兵出たって聞いたけど」
「ええ…まぁ」
歯切れが悪いように答えた木虎ちゃんに首を傾げながら「どうやって倒したの?」と疑問をぶつける。噂では、空飛ぶ巨大なトリオン兵だったとか。
「私じゃありません」
「え?」
「誰かが助けてくれたんです……私じゃない」
誰かって?そう聞こうとして開いた口は、悔しそうな表情をした木虎ちゃんを見て自然と閉じた。
誰だか分からないけど……助けてくれたならいい人なんだろうな。
「………もっと訓練しないと」
そう呟いた後輩に口元が弛む。
「木虎ちゃんのそういうとこ、好きだよ」
へらりと笑ってそう言うと、木虎ちゃんは照れたように顔を逸らした。
(なんですか…)
(えへへ)
20170223
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