諏訪隊と私
なんでこうなったのだろうか。
手に持った棒付きキャンディーを手の中で転がしていると、「食べないの?」と声が掛けられた。
「あの…小佐野せんぱい?」
「んん?なあに?」
口の中でキャンディーを転がしながら私の手元にあったキャンディーの包みを開けた小佐野せんぱいに戸惑いながら声を掛けると、ソファーに深く腰掛けた彼女は不思議そうに首を傾げた。そんなきょとんとした表情されても……飴?飴なの?おずおずとキャンディーを加えると、満足そうな笑みを向けられる。なんなんだこのやり取りは…。スマホに目を向ける小佐野せんぱいに意識を向けたまま、初めて入る諏訪隊の作戦室をぐるりと見渡す。
「すわさん今向かってるってー」
「えっ…そうですか」
何故私が諏訪隊の作戦室にいるかといえば、目の前の小佐野せんぱいに連れて来られたからである。
「あー五月さん……すわさんが会ったら連れて来いって言ってたんだ」
そう言われて訳も分からず着いてきて今にいたるわけだが……なんで諏訪さんに呼び出されてるんだ。え、こわい。その場には半崎くんと笹森くんもいたのだが、笹森くんは苦笑いで「オレも後から行くね」と言ったっきりまだ来ていない。なんで二人っきりにしたの!小佐野せんぱいと話すの今日が初めてなのに!ここにいない二人に心の中で恨み言を言って、ムスリと口を曲げる。
「……おいしくなかった?」
「えっと…おいしいです」
「よかったーこれもらったやつなんだけどねー」
「そうなんですか…」
私もっと気のきいたこと言えないのか!どうすれば……とキャンディーを舐めながら目を泳がせていると、入り口が開く音が耳に入った。
「すわさん遅いー!五月さん待ちくたびれたよ!」
「そんなに時間経ってねーだろうが!」
「諏訪さんおつかれさまです……帰りますね!」
「なんでだよ!」
「こわい…」
「すわさん女の子怖がらせちゃだめなんだー」
座ったまま少し体を引いて作戦室に入って来た諏訪さんを見上げると、眉間に皺を寄せて「コイツほんとに怖がってねえよ」と小佐野せんぱいに言った。うっ…バレてる。
「…………それで用事なんですか」
「嫌そうな顔するな」
「カツアゲですか?何も持ってないです」
「ちげーし!」
「ほんとに心当たりないんですけど……また説教ですか?」
「またってなんだよ……お前の中の俺のイメージどうなってんだ」
どうって……今言った通りですけど…。ガシガシと頭を撫でる振動で体が揺れる。ゆらゆらする視界に開いたままの扉の向こうから笹森くんと半崎くんが顔を覗かせているのが見えた。お、遅いよ。
「あの…諏訪さん…これからミーティングなんで…早く用件を…」
「ん?用件?……ねえよ」
「な…い…?」
「ああ」
「帰ります」
「いや、待て。チョコやるから」
「待ちます」
立ち上がり掛けていたソファーにもう一度座って居ずまいを正すと、小佐野せんぱいが「餌付けだ」とぼそりと呟いた。いえ、違います。餌付けされて……ない…多分………。棒だけになったキャンディーの残骸を口から出して、チョコはまだかと期待を込めた目で見上げると、「その前に…」と言った諏訪さんの手が今度は優しく頭に乗せられた。
「こないだの試合すごかったじゃねえか」
「え」
「まあ……用件っつーかそれだけ言いたくてな」
「…まだランク戦終わってないですよ」
「ああ…次当たったら今度は俺が叩きのめしてやるよ」
「それは嫌ですね」
私達が勝った前回の試合……そのときのことをわざわざ褒めてもらえるなんて思わなかった。……諏訪さんは世話焼きだ。
「次当たったときも私が諏訪さんを落としてあげますよ」
うれしいけど……まだ私達はライバルだ。
にやりと笑ってそう言うと、「生意気だな」と優しく置かれた手は乱暴に頭を撫でた。
(それで、なんで隊室まで呼び出されたんですか)
(負けた話とか他の奴らの前で出来るわけねーだろ!)
20170213
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