B級ランク戦A
弾丸が貫いた身体からトリオンが漏れ出すのをスコープ越しに見て、止めていた息をはっと吐き出す。……あれなら、すぐにベイルアウトするだろう。
『晶、1人そっち向かってる』
「了解。移動します」
レーダーで位置を確認している途中、こちらに向かって来ていた反応が消えた。…バッグワームか。でも、ちょっと遅かったね。
「来る方向は分かってるよ」
消えたのは笹森くんか……負けないからね。私が手放した弧月を使っているクラスメイトに密かに対抗意識を燃やしていると、先程私が撃った相手がベイルアウトした。
「あれ?もう1人落ちた?」
『半崎くんが…』
「捕まっちゃったか」
『晶も気を付けて』
「うん」
他の人に見つからないよう移動しながらレーダーをこまめに確認する。笹森くんがカメレオンに切り替えれば、レーダーに映る。あれ……諏訪さんもこっち来てる?笹森くんと合流するつもりなのか…荒船先輩の方とほかり先輩の方どちらに行こうか迷ってたけど…。
『五月、こっち来い』
私を呼ぶ声に迷いなどなかった。
*******
「最近すぐに落ちなくなったな」
ラウンジで会った鋼さんと来馬さんと話していると、鋼さんは「試合観たよ」と口を開いて続けてそう言った。昨日の夜の部に行った私達の試合は、荒船隊の勝利で終わったのだ。
「そのうちその余裕なくしますから」
「はは、楽しみだ」
「負けません!」
「晶ちゃんがんばってるね」
「え…ありがとうございます」
来馬さんに褒められたことに恥ずかしくなって、ぐっと握り締めていた拳を開いて背中に隠す。
来馬さんの笑顔を見ると戦意喪失しそう……こわい。
「そういえば…太一は一緒じゃないんですか?今日狙撃訓練あるのに…」
「ああ、太一は明日提出の学校の課題終わらないってがんばってるよ」
「時間までには来ると思うけど…」
「あー…課題……英語のですね」
「晶は終わったのか?」
「なんでみんな同じこと言うんですかね!?」
そんなに勉強出来ないイメージが強いのか……出来ないけど…課題はちゃんとやるもん。B級ランク戦期間中は荒船先輩は特に厳しい……そう、厳しいの。スパルタな教え方を思い出してぶるりと肩を震わせると、鋼さんは「よく荒船に泣きついていたの見てたからなぁ」と苦笑した。
「私は以前の私とはもう違うのです」
「勉強も?」
「勉強もです!疑ってますね…」
「疑ってなんてない……試合観たって言っただろ?」
「…………はい」
「晶は狙撃手なんだな」
他の人が聞いたら当たり前のことを言っていると思われるかもしれない……でも、私には意味のあることだ。
「はい、狙撃手なんです」
笑って、そう言えるようになったんだ。
(20170209)
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