菊地原くんと私C
撃った弾丸が相手のトリオン供給機関に命中したのが分かった。
ベイルアウトしていく光を見て、引き金を引いた指が震えるのを感じた。
私一人の点ではない。半崎くんが撃った弾を避けようとして相手が体制を崩したところに命中したのだ。
これが、チームで点を取るということ。分かっていたはずなのに……ようやく胸にすとんと収まった気がした。


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今シーズンのBランク戦は終わりを迎え、賑やかだった本部内は少し落ち着きを見せた。今の時期は、ちょうど学生にとっては夏休みだ。中高生が多いボーダーでも、ラウンジのあちこちで勉強している姿が見える。学校の課題が終わってない隊員は必死だ。
例に漏れず課題が終わっていない私も教科書を抱えてラウンジに来ていた。今日は、荒船先輩は隊長会議でいない……というかたまには友人に頼ってみろと言われた……鬼…。うーん…どうしようか…半崎くんは笹森くんと勉強するってさっさとどこかに行っちゃったし(ひどい)、嵐山隊は防衛任務だし……。
誰かいないかなときょろきょろとラウンジを見渡すと、じっとこちらを見る菊地原くんと目が合った。

「ここ座ってもいい!?」
「そっち歌川来るんだけど」

頬杖をつく菊地原くんの向かい側に座ろうとすると、そう言って自身が座るソファーを叩いた。座るのはいいのか…。

「菊地原くん、英語教えて」
「まだ課題終わってないの?」
「ぐっ…菊地原くんだってまだ終わってないでしょ」

テーブルの上に広げられた教科書を指してそう言うと、「これは予習だから」と鼻で笑われた。うう…泣きそう。

「何へたれてんのさ……教えて上げるからさっさと課題出して」
「!!……うん!」

一緒に勉強するってすごく友達っぽいね!って言ったら変な顔をされた。うん?それはどういう表情?

「は?………なんだと思ってたの」
「ええと…………同期?」
「………」
「いたっ……いひゃい」

首を傾げて答えると、隣から伸びた手はぐいぐいと私の頬をつねった。

「あの…友達?」
「………」
「ちょっと黙ってつねろうするのやめてよー」

再び頬に伸ばされた手を腕でガードすると、「随分元気になったね」と菊地原くんは大きくため息を吐いた。

「こないだ会ったときは死にそうな顔してたのに」
「しっ……!?そんなに!?」
「うん」
「う………あのときはお世話になりました」
「……なにもしてないけど」

テーブルの上のノートに視線を落とした菊地原くんを横目で見ながら、最後に交わした会話を思い出す。

「あのね……私負けなかったよ」

私はやっと……自分の弱い心に負けなかったんだ。


(知ってる……観たよ)
(えへへへ…)
(ちょっと、だらしない顔しないでくれる?)

(…………なんで五月がいるんだ?)


20161227
season2終わり

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