佐鳥くんと私 A
涙と一緒に不安も全部口から吐き出した。
泣き出した私を人が少ない場所まで佐鳥が連れ出してくれたおかげで、人目を気にせず弱音を吐けた。黙って背中を擦っていた佐鳥は、私が落ち着くのを待っていたのかハンカチで涙を拭った私の手を取って「よし、行こう!」と立ち上がった。繋がれた左手に恥ずかしさよりも戸惑いが勝った。
「どこに行くの?」
歩きだした佐鳥に引っ張られるまま、後ろを着いて行く。突然泣き出した仲良くもない元クラスメイトに嫌な顔ひとつしない。話しかけて来たときと同じようにニコニコと笑う彼にどうすればいいのか分からなくなる。
いつもクラスの中心で笑っていた佐鳥は、男女関係なく友達が多くて、私とは正反対の人だった。人に積極的に話し掛けることが苦手な私は、「暗い」と言われることが多くて人に囲まれる佐鳥が羨ましいと思ったことは一度や二度ではない。友達にも私にも明るい笑顔で笑いかける佐鳥が私には眩しすぎた。
クラスが変わったのにわざわざ話し掛けてくれて嬉しかったのに…泣いて困らせてしまっただろうか。
一つの部屋の前に着くと手首から手が離された。佐鳥に促されるまま部屋の中に入ると、奥行きがある広い部屋が目の前に広がっていた。
「ここってもしかして…」
「狙撃手の訓練場だよ!」
「……初めて入った」
「五月さん攻撃手だもんね」
「うん」
「いつもここで練習してるんだよ〜」
なんでここに連れて来たんだろ。トリガーを起動した佐鳥に首を傾げていると、彼は「こっちにおいで」と大きく手を振った。
「あの……佐鳥くん」
「んー?」
「なんで私を連れて来たの?」
さっき佐鳥も言ったように私は攻撃手だ。銃を構えた佐鳥は遠くの的に何発か打った後、にかりと笑った。
「かっこいい佐鳥を見てもらおうかと思いまして」
キリッとした表情で言われた答えに思わずぽかんと口を開けると、佐鳥はみるみる顔を赤くした。
「え!?引いた!?」
「………引いてない」
「引いてるよね!?」
「うわあああっ」と叫んで背中を向けた佐鳥をじっと見ていると、どこからか「ちょっとうるさい!」との声が飛んできて、笑ってしまった。
「あ、五月さん笑ったな!」
「わらっ…笑ってない……ふふっ」
「笑ってるよー」
「ごめん」
「許さない!」
「えー」
くすくすと笑う私の両手を掴んだ佐鳥に目を向けると、彼は困った様に眉を下げた。
「ボーダーやめないで」
さっきまでのふざけた雰囲気は消え、真剣な目をする佐鳥に息を飲んだ。
わからない。私の個人ランク戦観てたのに、どうしてそんな風に言ってくれるの?
「ねぇ、五月さん」
ぎゅっと握られた指先に力がこもる。
「佐鳥と一緒に狙撃手やってみない?」
この言葉が私にとっての転機だった。
20151215
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