Drink at Bar Calm | ナノ
出勤時間よりは人がまばらな電車を降りて、改札を出た瞬間見つけた義勇さんの姿に一瞬で綻んでいく顔は何とか抑えた。
でも嬉しいって感じるのは当たり前だから、変なニヤケ顔じゃなくて笑顔になるように頬を動かす。

「お待たせしましたっ」
「…いや、待ってない」

そう言った義勇さんがちょっとぎこちなくて、そういえばこんな風に外で待ち合わせしたのとか、私服見るのとか、全部初めてだって気が付いた。
いつもシックな制服だから、こうやって見るとちょっと若くっていうか、歳相応に見えるかも。

「…気合い、入れたのか?」

突然訊かれたその言葉の意味は、すぐにわかって、一気に恥ずかしくなった。
「あー、妹が…色々選んでくれて…」
きっと私らしくないって思ったんだろうな。今の恰好とか、いつもより濃いめの化粧とか。

「お姉ちゃん、デートなんだからもっとオシャレして行きなよ!」

準備してる私の姿を見るなりそう言って、ああでもないこうでもないってクローゼットから出してきた服と、貸してくれたメイク道具とアドバイスで何とか作った顔。
でも義勇さんのことだから、何も反応ないだろうなって思ってたから、そこに触れられたのにビックリしてる。

「…変、ですかね?」
「……。変じゃない」
「年齢確認はされないですよね!あははっ」
笑いに変えようと思ったのに、途端に険しい顔をされてしまった。
「この間のは、つい口に出ただけだ」
「わかってます!」
だから気にしてない、冗談で言ってみたって内容を口にする前に

「綺麗だった」

思ってもみなかった台詞を聞く。
ビックリしすぎて、心臓が一瞬動くのを忘れてた。
もうそれだけで、平常心でなんていられないのに

「今も、綺麗だ」

そんな事を言われたら、熱くなっていく顔が止まらない。

「…あ、ありがとう、ございます…」

義勇さんの顔も見れないまま俯いちゃったけど、嬉しいからそれだけは伝えた。
妹の言う事聞いてきて、良かったかも。
今すごい、どんな顔していいかわかんないけど。
これはもう、焼き肉を奢るしかないかも知れない。

「…行こう」

歩き出した背中に続きながら、後ろ姿もカッコイイなってニヤけそうになる口元に力を入れた。

「失礼しますっ」
小さく頭を下げてから、助手席のドアを開ける。
ここに座るのは2回目だけど、今の方が遥かに緊張してる。絶対。
「料金を払ってくる。待っててくれ」
エンジンを掛けてから閉めようとする動作を慌てて止めた。
「あ、私も出します!」
「いい。大丈夫だ」
短い返事と同時に閉められちゃったからそれ以上何も出来なくなって、ただ車内で小さくなって待つしかない。
何か心なしか、義勇さんの匂いがする気がする。この車。
師匠の鱗滝さんが買ってくれた社用車って前に言ってたっけ。
凄く綺麗に保たれてるっていうか、大事にしてるんだろうなっていうのが伝わってくる。
だから何となく、堂々と座っていられないって気持ちが湧いてきて、縮こまってたけど、運転席のドアが開いて義勇さんの姿を見たら安心した。

「…あの、すいません。お金…」
「気にしなくていい」

涼しい顔で車に乗り込む動作も好きだなって思うと、またニヤけてしまいそう。
でも浮かれてる場合じゃないって気を引き締めた。

「家具屋さんって、ここら辺だと何処にあるんですか?」

デートみたいだけど、Calmの備品を買いに行くって目標があるんだから、そこはちゃんとしないといけない。

「国道沿いに大型の店がある。そこで大体の金額を把握したい。必要があればリサイクル店にも行くつもりでいるんだが、いいか?」
「勿論ですっ」

笑顔で即答したのは、義勇さんの考えが予測出来てたから。
最初はすごく器用な人に見えてたけど、実は結構不器用なんだって知ってから、何となくわかるようになった。

今はCalmのこと以外、見えてないし考えてないんだろうなって。

だから私も、デートだなんだってニヤニヤばっかしてないで、ちゃんと義勇さんと同じ目線で考えて、少しでも力になりたい。
勝手にドキドキする心臓には、落ち着くよう言い聞かせた。

言い聞かせたのに、シートベルトを締めようとする手が止まって、何だろう?と思った時には口唇が重なってて、何にも反応が出来ないまま離れていく紺碧色を見る。

「…あ、え…っ?」

どうして良いかわかんなくなるのをよそに、ふっと微笑っただけですぐに車を発進させるから、もう一度落ち着けって、何とか平常心でって、自分に言い聞かせた。


Drink at Bar Calm


ようやく心音がいつも通りになった頃に到着した、大型の家具屋さん。
初めて見たその外観に感嘆が勝手に出た。
「おっきいですねー…」
「ここに来れば大体の物は揃う」
自動ドアをくぐっていく背中も言い方も慣れてて、きっと良く来るんだろうなって想像してみる。
迷わず上りのエスカレーターに乗る辺り、間違いないと思った。
2階の中央部分まで進んだ所で、
「この辺りだ」
立ち止まった先には、キッチン用の大型家具が並んでて、その奥には家庭用のバーカウンターが見える。
そちらに向かって歩き出す姿に黙って続いたけど、大型家具に隠れていたその先に小さく声を上げていた。

「…わ、すごい、たくさんっ」

ズラッと並んだ背の高い椅子は、形も色もそれぞれ個性的で気持ちがワクワクしていく。
家具屋さんなんてあんまり行った事ないし、バーチェアなんて、それこそちゃんと意識して見たことなかったから、凄く新鮮な光景に感じた。
真っ黒でシンプルの物から、デニム生地を使ってわざと継接ぎにしてるデザインもあって、見てるだけで楽しくなる。

「かわいい〜」

つい口にしてしまった感想も、真剣に値段を確認していく表情に気を引き締め直した。
そうだ。これはいくらなんだろう?
義勇さんに倣って、下げられてるタグをひっくり返して見る。
6,800円…。高いのか安いのか、正直私にはわかんない。
でも例えばこれを8脚買うとしたら…、えーと
「やはり5万は軽く超えるか…」
独り言のように出された台詞に計算しようとしたのをやめて、そっちへ考えを向けた。

「予算はどの位なんですか?」
「出来れば5万を切りたいと考えている」
「…うーん、じゃあここにあるのは全部予算オーバーですね」

念のため他の椅子も確認してみるけど、どれも最初に見た値段より高くて、これは早々にさっき言ってたリサイクル店に行った方がいいかもって考えた瞬間、ひとつの黒い椅子に座る義勇さんに瞬きが多くなる。
レバーを動かして、上下する感覚を確かめてるみたい。
もしかして
「…気に入ったんですか?」
何も言わないから多分だけど、表情がそんな感じがする。
「……。色味と素材はこれが一番思い浮かべていた理想に近い」
そう言いながら下りると
「座ってみるか?」
自然に促されて、迷ったけど小さく頷いた。一番下まで下げてくれたのに続いて、その椅子に腰掛ける。
黒じゃなくて濃紺だっていうのと、つや消しされたレザー生地だっていうのを、実際近くで見て、触ってわかった。
うん、座り心地は悪くない。高さも丁度良さそう。

「もう少し青味が強く、橙が入っていれば完璧なんだが…」

腕を組んで真剣に考える表情に、嬉しさが隠せなくなる。
ブルーとオレンジの"補色"を考えてくれてるのを知ったから。
あの時深く考えてなかった提案は、こんなにも義勇さんとCalmの中で、重要な位置づけをされてるんだって、そう思うと嬉しくないはずがない。
でもその理想を探すのは結構難しいだろうなっていうのも同時に湧き上がった。
私がわざわざ言わなくても、義勇さんはわかってると思うけど。

「ひとまずだが、これは候補としておく」
「了解ですっ」

返事をしてから、そこから下りる。
これならCalmの雰囲気にも合うし、レザー生地ならもしカクテルとか溢しちゃってもリカバリー利くから、候補としては結構良案だと私も思う。
ただやっぱり、義勇さんの中で完璧な理想でないのと、その割に予算を上回ってるっていうのが気掛かりなんだろうな。

「義勇さん。ここって、商品の撮影しても大丈夫ですか?」

思い立って出した質問は、多分意味がわからないだろうなって自分でも感じるからそのまま続ける。
「写真に残しておけば後から比較しやすいかなって。でもお店によっては撮影禁止とかいうのもあるから…」
そこまで説明した所で表情が少しだけ変わった気がして、それがどういう意味なのかも、ちょっとわかった。
「店員さんに訊いてみますねっ」
この近くに居ないか辺りを見回して、タイミング良く通り掛かった男の人が店名が入った
上着と名札を首から下げているのを見止めて手を挙げる。
「あ、すいませーんっ」
目が合ったその人は、
「いらっしゃいませー」
って快く微笑ってくれたからすぐに本題に入った。

「この椅子の購入を検討してるんですけど、まだちょっと悩んでて、ゆっくり考えたいので写真を撮ってもいいですか?」
質問が終わる前から曇った表情に、あ、これダメなんだなって思って更に続ける。

「飲食店に設置したくて、出来れば8脚買いたいんです」

わざわざ詳細を話したのは、コンサルの現場で学んだ事。

「…8脚ですか?」

こういう大型家具とか金額が大きいものを扱うお店は、定期的に取引が出来る顧客を常に求めているから、例えば今みたく、こちらは業務的に、かつ纏めて購入する意思があるって旨を伝えると柔軟な対応をしてくれる所が多い。

「はい。だからちゃんと考えたくて」
「そういうことならどうぞどうぞ!好きなだけ撮っていってください!」
「ありがとうございます」
良かった。学んだこと、ちゃんと活かせたみたい。
頭を下げて上げた先で差し出された名刺に、私が受け取っていいのか迷って義勇さんに目線を送っても、さっきの椅子を見つめたままで、代わりにそれを受け取った。
「ごめんなさい、今ちょっと名刺持ってなくて…」
「大丈夫ですよ。いつでもご連絡お待ちしてます」
にっこりと微笑んで去っていく背中に小さく頭を下げてから、名刺を差し出す。
「義勇さん、これ」
手元に渡ったのを確認して、
「写真撮っておきますね」
すぐに鞄から出したスマホでカメラを起動させた。
「いや、いい。やはりもう少し理想とするものを探したい」
「え?」
振り返った先、もう歩き出してる義勇さんに続くしかない。
「でも一応撮っておけば…」
「いい」
ちょっと強めの口調に、あ、私また何かしちゃったんだって気が付いた。
でも正直、心当たりが全くない。
バーマンさんじゃなくて名前でちゃんと呼んだから、そこじゃないのは確かだけど。

「営業に行く話は、完全に立ち消えたのか?」
「…え?」

突然すぎる質問に考えも追いつかなくて、また訊き返すしか出来なかった。
でも反応はないから、答えなきゃって口を開く。

「多分…。主任も何も言ってないし、私ももう、正直別に営業には行かなくてもいいかなって思って、て」

どうして突然気になったのかがわからないままだから、答えがこれで合ってるかもわからない。
でも自分が思ってることは伝えなきゃってそのまま口にした後、振り向いた表情がちょっと柔らかくなってるのを感じた。
でもすぐに私より後方を見つめる視線は何かを思いついたみたいに、指し示す。

「向こうを見に行きたい」
「はいっ」

反対方向に歩き始めたから、勢いだけで返事してついていく。

キッチン家具からタンスへと移っていく風景に、自然とワクワクするなって考えた。
もし実家を出たら、こんな感じのがいいなぁなんて思い浮かぶから。
それが現実的に出来る出来ないは別として。
家具のデザインにもシリーズがあるみたいで、こういうので全部揃えたらすごくオシャレなんだろうなとか。
SALEとデカデカと書かれた値段を見ると、嫌でも現実に引き戻されるけど。

立ち止まった背中に、ぶつかる直前で止まった。

少し頭の角度を変えて覗き込んだ先には、ベッドコーナー。
マットレスを軽く押す右手に、あ、これが目的だったのかなって思った。
そっか、って納得もしてる。
あの簡易的ベッドで毎日寝るのは身体に負担を掛けそうだし、前に住む所を探してるって言ってたからその延長なのかも知れない。
もしかしたら物件、見付かったのかな?
あ、でもさっきの私みたいに折角だからとりあえず見てみてるだけっていうのもあるかも。

いくつか触ってから、ひとつのベッドに腰を下ろす姿に、気に入ったのかな?って話し掛けるより早く

「今日、名前の母親に挨拶をした際」

間を取って一度視線を落としたから、そのまま続きを待った。

「いずれ一緒に住むつもりだと言うのは、反対されると思うか?」

一瞬、ほんとに一瞬、誰が?って思ってしまったけど、そんなの訊かなくてもわかりきってて、でもそこにちょっと時間を使っちゃったから慌てて考える。

「…わか、んないです…」

そんな話になったことがないから想像をしてみるけど、ほんとに全然わかんない。どう返してくるかも。

前だったら即答で「されます」って言えた。
それもどうかなって自分で思うけど、主任と妹のお陰で、義勇さんに対するイメージは悪いものにはなってないし、会ったら良い方向に変わるとは感じてる。これは絶対に。

母親は、すごく喋る人が嫌いだから。

いつだったかな。皆でご飯食べながら見てたテレビで、"この人は良く喋るから信用出来ない"って言ってた。
父親と結婚したのも、寡黙だったからっていうのも。
勿論、それだけじゃないのはわかってるけど、それも決め手のひとつにはなってるっていうのは伝わってきたから、そこに関しては母親が思う理想…みたいなものはクリアしてる。
だから、印象が悪くなることはない。よほどのことがない限り。

でも、じゃあ全部大丈夫で許されるかって訊かれると、それはまた難しい。

「…多分、最初から賛成は、されないとは、思います…」
たどたどしくだけど、その言葉を出した。
「それは想定している。ひとまず意思を伝えたいだけだ」
遠くを見つめる瞳は何か真剣に考えてるみたいで、返事も思いつかないまま視線を落とそうとしたけど、マットレスをポンポンと叩く右手に首を傾げた。
「座ってみないか?」
「へ?あー、と、…失礼します」

間を空けて隣に座った瞬間、義勇さんが何を見て、何を感じていたのかを理解した気がする。

少し離れた、子供用の学習机が並んだ一角には多分、お母さんとお父さん、そして小学生っぽい男の子。
ここまで声は聞こえてこないから想像だけど、多分学習机を選んでるんだと思う。
時折談笑してる光景を、義勇さんは今も眺め続けてる。

どんな、気持ちなんだろう?

すぐ隣に居るのに想像してみてもわからないのが、少し寂しく感じた。

「…いいですねこのマットレスっ。硬さが丁度いい」

寂しいから、思ったままを口にしてみる。
多分、今私が義勇さんの深い所に触れても、想像も出来ないままじゃどこかで傷付けてしまいそうで怖い。

「……。同じことを思っていた」
ちょっと驚いてる表情と目が合って、嬉しくなる。
「ベッド買うんですか?」
「まだ予定はない」
「住む所、探してるって言ってませんでしたっけ…?」
「正確に言うと、探そうとしている、だ。お前がこちらに越して来られるまでは待つことにした」

顔がもう、すごくこれでもかってくらいにニヤけてしまった。一緒に住むの、前提なんだって思ったら、嬉しすぎるどころの話じゃない。
どうにか誤魔化そうと顔を反対側に向けて、目に入った『どうぞ寝心地をお確かめください』の文字。

あ、寝転んでみたいって、靴を脱いだ。

「いいですねっ。そしたらここで家具買ったりしたいなぁ」

ベッドもそうだけど、2人で使うものをいちから揃えたら楽しそう。
実現するかどうかはわかんないけど、想像は自由だし、今はこのワクワクする気持ちに嘘をつけない。

右側を向いて横になってみて、あ、すごい気持ち良いかもってちょっとだけ目を閉じた。
つもりだったのに次に目を開けた先には義勇さんが居て、心臓が止まりそうになる。
「……っ!」
いつの間にか同じように横になってて、しかもこっち向いてるし、ばっちり目も合っちゃって、焦るなんてそんな軽いものじゃない。
でも声は上げなくて済んだ。もしかしたらちょっと耐性がついてきたのかもって思った心は、頬を撫でる右手でバクバクと急速になっていく。
しかも義勇さん、すごい優しい顔してて、それだけでもう何なら心臓止まるのに

「一緒に住んだら、楽しいだろうな」

そんなこと言うから、息するのも忘れてた。

一緒になんて住んだら、私ほんとに心停止するかも知れない。ドキドキしすぎて。
でも口に出せるわけなくて
「…そっ、そう、ですね!」
上擦りまくった声だってのはわかったけど、とにかく肯定で返す。
小さく鳴った喉が笑ってるって気が付いて、恥ずかしさから言葉を続けようと開いた口唇は移動してきた中指を挟んでしまっていた。
「…ほわっあ!ごめんなさいっ!」
すぐにその手を掴んで身体も後ろに逸らしたけど、食べちゃった。
食べてしまった。義勇さんの指を、はむって。
これはもう何て失礼なことをってしか言えない。
「ごめんなさい!今なんか拭くもの!」
もう一度謝って勢い良く起き上がる。
鞄の中を漁ってみるけどハンドタオルくらいしかなくて、これじゃ意味ないって思うけど一応出してみた。
これって言う前に
「いい」
短く断る義勇さんは気付いたら起き上がってて、それにもちょっとビックリする。
「でもきた「汚くない」」
まるで思考を読まれてるみたいに出された台詞に、グッと喉が詰まった。

「好きな相手にそんなことは思わない」

そうハッキリ、すごくハッキリ言った紺碧は綺麗で、とても真剣で、近付いてくるその色にまるで吸い寄せられるみたいに顔が上がっていく。
でもすぐにそれを止めて頬を撫でた右手に、瞬きが多くなる。
居た堪れずに俯いたら、ちょっとだけ口元が下がったような気がした。

「やはり義は通さなくてはならないか…」

"ぎ"って何だろうって思ったけど、

「どうにか手厳しそうな母親に認めて貰うのが最重要だな」

独り言のように呟く声に、あ、そうだって思い出す。
今はそれがすごい壁っていうか、とにかく乗り越えなきゃいけない。
だって母親にダメって思われたら、言われたら、ほんとに終わるから。
父親もお姉ちゃんも、妹だって絶対こっちの味方はしてくれない。
だからって、じゃあやめます、別れますなんて諦められるくらい、もうそんな簡単な想いじゃないから、私は義勇さんと一緒に居る道を選ぶ。
そしたらもう、極論だけど駆け落ち同然で家を出るしかなくなるって考えると、それはやっぱりどうにか避けたい。

どうにか頑張って、義勇さんとのことを許して貰わなきゃ。

決意を新たにして、真剣に考える。

母親の今までの傾向とか好みとか思い返してみると、見た目も性格も、義勇さんのことをそこまで嫌いになるような要素はないと思う。
だけど正直、1回会っただけでそこまで好かれるわけじゃないっていうのも、事実としてある。

義勇さんは、少しわかりづらいから。
少しっていうか、だいぶ、だけど。
もし初対面であの言い過ぎな面が出ちゃったらっていう心配がある。

そしたらどうすればいいのかって考えたら、それを補うような、義勇さんのすごさっていうか、良さを見せればいいんじゃないかな。
折角Calmに来るんだから、それこそ"バーマン"としてのすごさ、みたいな。漠然とした構想だけど。

「…あ」

小さく上げた声は、隣にも届いていたみたいで、紺碧色が不思議そうに向けられる。

「ルビー・フィズ…」

そうだ、そう。思いだした。
これはもしかしたら武器になるかも。

「ルビー・フィズが呑みたいって言ってました!母親!」

一瞬寄った眉も、すぐに涼しげな表情に戻っていく。
どこか納得してるように動いた視線は足元に落とされて

「なかなかに手強そうだ」

ぽつ、と零された言葉に、ちょっと不安が襲ってきた。


RubyFizz
見極め




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