デート 中編



※全てファンタジーだと、理解している人だけ読んで下さい。

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「ナマエってワンピース好きなの?」
「え、なんで?」
「だって、初めて会ったときも、モストロ・ラウンジ来たときも、今日もワンピースじゃん」
「……」

 彼女は手に取っていた服も、ワンピースだったことに気付いて、何故か元に戻してしまった。フロイドは彼女の行動に首を傾げて、もしかして、言われたくないことだっただろうか?と少し心配になった。フロイドはよく気付く男だった。彼女が少しでもブティックのショーウインドウを見ると、すぐに「入ろう」と彼女の手を引っ張って、店内へと入っていくのだ。その度に、彼女はそんなにじっと見てないのに、よく違いが分かるなぁと感心した。同じような見せる素振りを見せても、彼女が興味がないお店には行こうとも、すんとも何も言わないのだ。

 今ふたりが服を見ているブティックは、基本的に可愛らしい雰囲気のものばかりだが、少しだけ大人っぽいデザインもあるブランドだった。少しだけ背伸びがしたい、今の彼女にはぴったりだ。彼女はフロイドの質問への答えが少しだけ気恥ずかしくて、服を見るために離していた手を彼女から繋いだ。フロイドは彼女からの接触に驚きながらも、にこっと笑って、小さな手を受け入れる。

「ワンピースって、スタイル良く見えるから」
「……ナマエって別にワンピースじゃなくても、スタイル悪く見えないと思うけど」
「でも、フロイドくんと並んだら、いつも以上に……」

 スタイル悪く見えそうだから、ワンピースがいいの。彼女は大きな手をぎゅう、と握って、拗ねたように呟いた。フロイドくんとなんて、まぁたそんな気にしないでいいことで悩んでいるのか、と彼女の小さな頭を見つめると同時に、とてもつもなく彼女のことをからいたくなった。この胸のときめきの仕返しがしたくて。フロイドは彼女の耳に口を寄せる。

「ナマエってかわいいねぇ」
「えっ?」
「だって、俺と一緒にいる前提で服選んでるってことでしょ?」
「……あ」

 彼女がフロイドの方へ振り向く。鼻の先に、フロイドの顔があった。自分よりも白い綺麗な肌が、左右異なる色をしている目が、薄い唇が、全てが近かった。ふわり、と色っぽい香水のいい匂いがした。少しだけスパイシーな匂いも混じっていて、彼女はぼーっとしてしまった。ぼーっとして、頬を赤くして、自分を見上げる彼女に、フロイドは自分で仕掛けたこと、ちょっと後悔した。そんな顔をされたら、無防備に開いた唇を奪いたくなる。「おやおや、短気は損気ですよフロイド」あーもう、分かってるし。フロイドはまだ夢心地な彼女の目を覚ますように、ぐいっと手を引っ張った。

「ねえ、ナマエ」
「あ、えっ、な、なに?」
「俺あそこの店行きたい」

 ぱちん、とシャボン玉が弾けるように、彼女は我に返る。フロイドが誤魔化すように、彼女から顔を離して、向かいのブティックを指さした。そこはカジュアルな雰囲気で、メンズもレディースの扱いもあるようだった。彼女は可愛いと思うけれど、特に欲しいと思う服はなかったので、フロイドの言葉に頷いた。

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 店内に入ると、動きやすそうなスポーティーな服が多い印象だった。彼女はレディースのどこだろうと探そうとした途端に、フロイドにまた手を引かれる。

「ナマエこっち」
「えっと」
「これと、これと……あとぉ」

 フロイドはまるで自分のクローゼットから服を取り出すように、迷いなく服を選んで行き、そのまま試着室に直行した。彼女はフロイドに引っ張られながら、ふよふよ、と後ろを付いてくる服を呆然と見上げる。一瞬店内見ただけなのに、こんな正確に操られるのか。カウンターにいたハンチング帽を被った男性が、目を丸くして、ニコニコとフロイドに笑いかける。

「フロイドくんまた来てくれたんだね。今日にいい感じに決まってるねぇ」
「あは。てんちょ、ありがとお。
 ねえ、こないだあったさぁ、ちょーかわいいスニーカーどこ?
 ア、えっとね、俺じゃなくて、この子が履くの」
「あぁ!水色のラインが入ったやつね。今日丁度入荷して、まだ裏にあるんだ」
「ほんとぉ?今から試着する奴と合わせたいんだけど」
「OK。すぐ持っていくよ」
「わーい。ありがとう」

 どうやら、このお店はフロイドの行きつけらしい。フロイドは気分屋だが、人懐っこい面もあるので、店長に気に入られているようだった。フロイドくんオシャレだし、自分のブランドの服を着こなしてくれたら、確かに嬉しいよな。うんうん、と一人で頷いている間に、彼女は試着室に押し込められていた。

「ふ、フロイドくん」
「ん?なぁに?着替えるの手伝ってほしいの?」
「ち、ちがうよ!」
「フフッ。じゃあ、着替え終わったら呼んでねぇ」

 フロイドはそう言うと、カーテンを閉めた。彼女はフロイドに渡された服を見て、眉を寄せたが、フロイドのセンスは間違いないのだ。今までフロイドが彼女に選んだもので、彼女に似合わないものはなかった。彼女は器用に背中に腕を回して、ワンピースを脱ぎ始める。フロイドに渡された服は、台形のスカートと、ショート丈のパーカーだった。初めてフロイドと会ったときの、フロイドの私服と雰囲気が似ている気がした。台形のスカートは膝上の丈で、彼女は丸出しになった膝が何だか恥ずかしかった。キャップも渡されたけど、今日は被ったら髪型崩れちゃうな。弄っていたキャップから、靴下が出てきた。いつの間に。

「ナマエ着れたぁ?スニーカー持ってきたよ〜」
「え、えっと、待って、今靴下履いてるから」
「分かった。着れたら声かけてね」
「うん!」

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「ふ、フロイドくん着替えた、……よ?」

 フロイドは試着室の前にある小さなソファに浅く腰を掛けて、彼女を待っていた。長い足を惜しみなく開いて座る姿はとってもかっこよくて、彼女はカーテンから覗かせた顔を引っ込みたくなった。なんと、フロイドが自分と同じ服を着ているのだ。色合いも、全て一緒だった。これは、いわゆる、おそろコーデという奴では。慄いている彼女の様子に気付かず、フロイドは彼女の報告に目を輝かせて、遠慮なくカーテンをバッと開け放った。そこには、自分と全く一緒の服を着たこれまたかわいいナマエの姿があった。ウンウン、ナマエぜってぇこーいうのも似合うと思った〜!先ほどよりも低い視線の分できた距離は少しもどかしかったけれど。このスニーカーを履けるなら、それも気にならない。

「いいじゃん。ナマエちょ〜かわいい」
「え、えっと、ありがとう」
「仕上げにこれ履いて」

 フロイドは彼女の足元にしゃがんで、ガラスの靴を履かせるように、スニーカーを履かせた。彼女の小さな足のサイズに、フロイドは知らず知らずのうちに、眉を下げてしまう。本当ナマエって小さすぎ。彼女の足元から彼女を見上げると、晒された白い足が目に入って、フロイドは慌てて視線を反らして、立ち上がる。あっぶな、見えるとこだった。

「わあ、かわいい」
「でしょ。ごっついスニーカーっていいよねぇ。ほら、これもお揃い」
「本当だ。靴までフロイドくんと一緒なんだ」

 フロイドは彼女の手を引っ張って、店内で一番大きい鏡がある所へ彼女を連れて行く。そこには、タブレットを見ていた店長も居て、彼女は恥ずかしくて、つい俯いてしまった。店長はふたりを見ると、大きく瞬きをして、すぐに優しく微笑んだ。これまた可愛らしいカップルの誕生だなぁ。

「てんちょ〜みてみて」
「フロイドくん見せつけてくれるねぇ。ちょ〜イケてるじゃないか」
「でしょお?俺らちょ〜イケてんの。ほら、ナマエも鏡見て」
「……わ、いいかも」

 フロイドの大きな手が背筋を伸ばせ、とでも言うように、彼女の背中をぐいっと押した。顔を上げて鏡を見ると、かわいらしいカップルの姿があった。お揃いのパーカーに、お揃いのスニーカー。フロイドは細身のパンツを着こなして、普段以上にスタイルが良く見えた。ワンピースとハイヒールがなくなった彼女はやはり、いつもより小柄に見えた。でも、このカジュアルな恰好だと、フロイドとの凸凹感も可愛さを引き立てているようだった。

 フロイドはまた鏡に引っ付いて、目をきらきらとさせる彼女に気付かれないように、そっと息を吐いた。指先に残った感触を消すように、フロイドはぐしゃぐしゃと自分の髪をかき回した。ナマエも女の子なんだから、付けてるの当たり前じゃん。アー、これからは背中触んの気を付けよ。

「ナマエのいつもの恰好もいいけど、こっちの方が動きやすいでしょ?」
「うん!うん?そうだね?……や、やっぱり、デートって動きやすい恰好の方がいいの?」
「あーまた小さい頭で考えないの。行き先によるでしょ」
「そ、そうだよね」
「今度はこの恰好して、遊園地デートしよ」
「!」

 彼女はフロイドの言葉に驚きながらも、頬を緩ませて、大きく頷いた。フロイドから出てくる次の予定の言葉が嬉しくて、仕方ないのだ。フロイドも笑顔で頷く彼女に、気分を良くして、店長に二人まとめて支払いで!と言い出して、彼女が自分で買うから!とひと悶着あったりもした。

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 彼女はフロイドとアイスを舐めながら、ぼーと鳩の群れを眺めていた。

 フロイドとお揃いの服を買って、店を出て、次はどうしようとフロイドに彼女が聞こうとしたときには、フロイドの中で決まっていたらしい。フロイドは、小さな公園の中の可愛らしい移動販売車を見つめていた。どうやらフロイドは甘いものを食べたい気分だったらしい。ふたりはアイスを買うと、近くのベンチに腰を下ろして、静かに食べ始めた。最初こそ、美味しい美味しいと言って、一口交換したりしていたが、ふたりともずっとテンションが高かった所為か、その反動でぼーっとしていた。

 彼女はアイスを食べながら、一つ気になることが出来た。フロイドくん今日楽しかったかな?朝の変わったお化けカフェ以外、本当にただの買い物だったんだけど。でも、自惚れかもしれないけど、フロイドくん私にメイクしてくれたり、服選んでくれたりするの、楽しそうだった。面白くはないだろうけど。彼女の気持ちに影が落ちかけたが、彼女はちゃんと自分で持ち直せた。うん、彼女は一つ頷いて、自分の気持ちを大切にしないと、決心する。そして、シンシアがくれた貝のイヤリングを指で撫でた。

「フロイドくん今日は誘ってくれてありがとう」
「ん?急にどうしたのぉ?」

 フロイドは彼女の言葉に、彼女の方へ振り向く。フロイドは丁度バリバリ、とコーンを食べているところだった。彼女は喋りながら、やっぱり気恥ずかしくなって、半ば強引に口の中にアイスを押し込んだ。

「ん、今日すごく楽しかったから、言いたくなったの」
「俺も。俺もちょー楽しかった」

 フロイドは彼女の珍しい前向きな言葉が嬉しかった。嬉しすぎて、色んなものが前のめりになってしまう、くらい。フロイドは彼女の口の端についてるアイスを指で拭って、そのままぺろり、と舐める。彼女が目を見開いて、フロイドを見上げる。ぽかん、と開いた口がなんとも無防備で、フロイドはその唇を塞ぎたい衝動にまた駆られた。ジェイドがおやおや、と登場する暇はなかった。フロイドの大きな手が彼女の頬に触れて、彼女とフロイドの視線が絡む。そして、フロイドの顔が近付いてきて、彼女はハッと我に返って、顔を背ける。ぺちん、とフロイドの顔に、彼女の髪が当たった。

「いて」
「あ、ご、ごめんね、フロイドくん」
「……ん、いや、今のは、俺がダメだった」
「え?」

 フロイドはベンチから立つと、彼女の前にしゃがみ込んだ。彼女は自分がフロイドを見下ろす立場になって、少し変な感じがした。フロイドは彼女の膝の上の小さな両手に、自分の両手を重ねる。

「あのね、俺来週もナマエと会って、色んなとこ行きたい」
「フロイドくん」
「今は難しいけど、旅行もしてみたい。
 同じベッドで寝て、朝起きたら隣にナマエがいて、一番最初におはよって言うの」
「……すごく素敵だと思う、それ」
「ほんとぉ?」
「うん」

 彼女は穏やかな表情で未来を語るフロイドの隣に居たいなぁ、と思った。これから色んなことをふたりで見て、ふたりで楽しみたい。実際は楽しいことばかりじゃないかもしれない。こないだみたいに、相手の事が分からなくなるかもしれない。それでも、一緒にいることを諦めたくないなぁ思う自分がいることに、彼女は気付いて、眉を下げる。きっと、もうフロイドへの気持ちは充分育ってる。そして、これからも、きっとこの気持ちは育ち続ける。うん、と迷いなく頷く彼女に、フロイドは柄にもなく考えていた愛の言葉が吹っ飛んで、シンプルな言葉しか出てこなかった。

「俺の恋人になってくれますか?」
「はい」

 フロイドの言葉に、彼女が頷くと、フロイドは大きく目を見開いて、眉を下げて、ふにゃり、と笑う。嬉しいのに、少しだけ泣きそうな気持ちに、フロイドは自分のことなのに訳分かんねぇと鼻を啜った。彼女に触れてもいいと、彼女の特別になってもいいと、彼女に許されたことがとても嬉しい。

「ナマエ……俺もう我慢しなくてもいい?」
「あ」
tenure
 フロイドの大きな手が彼女の頬に触れて、親指で彼女の唇をなのぞる。フロイドは眉を寄せて、苦しげで切ない表情で自分を見つめてくるものだから、彼女は眉を下げて笑う。フロイドの好きな笑い方だ。仕方ないなって、彼女が笑う。

「ふたりきり、になれるとこなら、いくらでも」
「!」
「うわっ」

 フロイドは彼女の言葉に表情も変えずにいきなり立つと、ブティックの肩にかけて、そのまま彼女を抱き上げた。彼女は予想外なフロイドの行動に驚いていると、フロイドは彼女に向ってニコッと笑った。

「ふ、ふろいどくん?」
「行こ」
「どこに!?」
「ふたりきり、になれるとこぉ」

 まさか、再びフロイドにパルクールで運ばれると思っていなかった彼女は、アイスが出てこないように、なんとか懸命に口を押さえるのだった。

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 フロイドが彼女を抱えてやってきた場所は、ある洋館だった。洋館と言っても、ずっと手入れがされていないのか、所々壁や屋根さえなかったりしている。雑草は生えっぱなしで、きっと立派な大理石だった床も緑に侵略されていた。ただ不思議と、不気味な印象はなかった。むしろ、この森の中の、神殿のような、絶妙なバランスで、存在していた。森の木々から零れる温かな日差しの下にあるソファへ迷いなく、歩いていく。そのソファだけは新品のように、綺麗だった。フロイドはマジカルペンをふって、ソファに乗っていた葉っぱを地面へと落とした。

「ここねぇ、俺の昼寝場所のひとつなの。
 いいとこでしょ」
「うん、温かいね」
「そう〜。めっちゃ丁度いいんだよねぇ、うるさくないし」

 フロイドはソファに座って、当たり前のように自分の膝に彼女を乗せる。ここまで来ると、彼女は特に抵抗もなく、大人しくしていた。フロイドは彼女の頬に大きな手で触れて、彼女の顔を覗き込む。

「ナマエ」
「!」
「ふたりきり、になったよ。してもいい?」
「いい、よ」

 何を、とは流石に聞かなかった。彼女の許可に、フロイドはぱぁーと嬉しそうに笑って、彼女の身体を抱き上げる。フロイドの腰を跨ぐような恰好になって、彼女はフロイドの肩に手を置いた。

「ん、じゃあナマエ目ぇ閉じて?」
「う、うん」

 彼女はドキドキしながら、言われた通りに目を閉じる。フロイドの親指がふにふに、と彼女の唇の感触を楽しんで、フロイドは薄い唇を彼女に押し付けた。唇と唇が触れ合って、彼女がそぉっと目を開く。フロイドも、薄目を開いてた。彼女とフロイドの目が合って、フロイドはゆるり、目尻を下げて、彼女に微笑みかける。

「キスしちゃったねぇ、俺ら」
「そ、そうだね」

 嬉しそうに浮かれるフロイドに、彼女も笑いかけるが、緊張し過ぎてそれどころじゃない。

「ねえ、もっかい」
「うん」

 フロイドに手はいつの間にか彼女の腰に触れていて、ねだるように彼女の腰を色っぽい手つきで撫でる。彼女はその刺激に、びくん、と身体を跳ねさせそうになるが、恥ずかしくて、なんとか耐える。でも、フロイドの熱っぽい瞳には抗えず、今度は自分からフロイドへキスをした。喋るわけでもなく、ふたりはキスを繰り返した。キスの合間に目を合わせて、微笑み合って、もう一度唇を重ね合う。そんな甘い戯れも、何度も何度も繰り返していると、甘いだけではない、熱が生まれてくる。フロイドが彼女の腰を強く抱いて、唇の角度を変えて、彼女の唇に押し付けた。

「はぁ、ふ、ふろいどくん、タイム」
「あは、タイムってなに、ナマエ」
「だ、だって……」

 彼女は真っ赤な頬を隠すように、フロイドの肩に額を押し付けて、ぐりぐりと地味な攻撃してみた。フロイドはくすぐってぇ〜と笑い声を上げる。全然効いてない。フロイドはすっかり熱くなった身体を少しだけ落ち着かせるように、彼女に気付かれないように深呼吸をする。

「もっとしたい」
「えっと、……」
「ナマエと大人のキスしたい」
「おとっ」

 フロイドのストレートな言葉に、彼女は言葉を詰まらせる。大人のキスって、つまり、唇を合わせるだけではない。あの、の、濃厚なやつのことを言ってらっしゃる?彼女はフロイドの肩から、顔を上げて、フロイドと向き合う。じっと無意識のうちに、フロイドの唇を見つめてしまう。フロイドは恥らないがらも、好奇心のままに自分の唇を見つめるナマエに応えるように、軽く口を開いて、舌先をわざと覗かせた。彼女の頬が分かりやすいぐらいに赤くなり、視線をあちこちに彷徨わせる。

「ナマエはしたくない?」
「え」
「俺と、おと」
「わー!繰り返さないで、は、恥ずかしい」

 いっそのこと、ナマエ〜べろちゅーしたぁい〜と無邪気に笑顔で言われた方が、精神的にダメージは少ない気がする。あまりの恥ずかしさに彼女の思考回路が飛びかけていると、フロイドは頬を膨らまして、彼女に甘えるように頬擦りしてきた。

「ナマエ意地悪しないで、答えてよ」
「……ちょ、ちょっと、だけなら」
「ん、分かった。ちょっとだけね」

 彼女もフロイドも、何がちょっとだけなんだろう?とお互いに思ったが、野望なことはお互いに聞かなかった。彼女が嫌だと言わなかった。それが答えなのだ。

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 最初は唇を重ねるだけの、キス。フロイドは彼女の緊張を解くように、ちゅ、ちゅ、とリップ音付きで、キスを繰り返した。彼女がふふ、と小さく笑って、少しだけ物足りなさそうに、フロイドを見つめる。フロイドはそんな彼女の視線に柔らかく目尻を下げると、彼女の頭を撫でながら、今度は強く唇を押し付ける。彼女はその強引さに、きゅん、と胸が締め付けられて、フロイドにねだるように、フロイドの首に腕を回した。何度も何度も重ね合わせるキスを繰り返して、はぁと熱い吐息がどちらかともなく零れた。

 フロイドは彼女の上唇をやわく啄んで、そのままゆっくりと彼女の口の中に舌先を忍び込ませた。彼女はびくっと肩を揺らして、でもフロイドにやめてほしくなくて、自分の口内に入ってきたフロイドの舌を舌で、つんつん、と突いた。フロイドの大きな手が彼女の腰をぐいっと抱くと、口の中のフロイドの舌は遠慮なく彼女の舌に絡みついてきた。ぬちぬち、と舌同士が絡み合ったり、フロイドの舌は彼女の口の中を探るように、動き回った。狭い口の中で、フロイドが好奇心のままに舌を動かさすものだから、彼女の口の端から、唾液が零れる。

「んっ、ふっ、ふろ」
「はぁ……ナマエもっと口開いて」
「むう、ぁ」
「んっ」

 唇を塞がられることが、気持ちがいいなんて知らなかった。彼女はフロイドの熱い舌に触れられる気持ち良さに、頭がくらくらした。膝立ちをしているのが、どんどん辛くなってきた。フロイドと離れたくなくて、フロイドの首に回した腕に力を込めて、よりフロイドに密着してみる。時々聞こえるフロイドの低い色っぽい声に、腰がぞくり、と震えた。フロイドの舌が彼女の上顎を舌先で、ぐりぐりと刺激して、彼女はびくん、と身体を揺らして、腰が抜けてしまう。へなへな、とフロイドの膝の上に座ってしまった彼女を追うように、フロイドは背中を丸めて、彼女の唇にちゅう、と吸いついた。

「んうっ……あっ、んんっ」
「ナマエかわいいねぇ」

 先まで自分と同じぐらい高さの視界だったのに。完全にいつもと同じ状態になってしまった。彼女は見上げる視界の中で、フロイドのとろけるように垂れ下がった目と、甘い声に、何だか泣きたくなってしまう。胸も、お腹の下の方も、切なくなって、フロイドを求めてしまう。離れた唇が嫌で、彼女は先ほどのフロイドのように、唇から舌先を覗かせた。彼女の行動に、フロイドは一瞬表情を無くしたと思うと、彼女の後頭部を大きな手で掴み、乱暴に唇を塞いだ。そのまま突っ込まれた舌は彼女の舌を絡みとって、覚えたばかりの彼女の弱い上顎を、ぬちぬち、と刺激した。

「んっ、やぁっ」
「はあ」
 
 フロイドに弱いところを刺激される度に、腰がびくびくっと揺れる。フロイドの所為で、勝手に揺れているだけなのに。フロイドは彼女が刺激から逃げ出そうとしているのだと勘違いして、彼女の腰を片手で逃げないように、抱き込んでいた。フロイドの強引な拘束にでさえ、反応してしまう自分の身体に彼女は呆れそうになっていた。べとべどになった口周りも、目をぎゅうっと瞑ると、ぐちゅぐちゅと脳内で響く音も、全て自分じゃなくなるような気がして、少し怖かった。キスの合間に、「ナマエこっち見て、ナマエ」とフロイドに名前を呼ばれる度に、自分の名前の響きが特別なものに聞こえた。

「ふろいど、くんっ」
「そんな可愛い顔しないで、ナマエ」
「えぇ……?」
「もう、ホント、止まらなくなるからさぁ」
「あうっ、それ、だめっ」
「だって、ナマエかわいいんだもん」

 フロイドは彼女の首筋にちゅ、ちゅと吸い付いて、べろぉと彼女の顎に向けて、舐め上げる。そのまま唇をに吸い付いて、彼女の舌を口の外へ引っ張り出した。「ふひょい」「んふふ」ふひょい、だって。フロイドくんって多分、ナマエ言いたかったんだろうな。フロイドは舌と舌をぴったり、とくっ付けて、擦り合わせた。互いの舌の突起すら、分かりそうな刺激に、彼女は眉を寄せて、ぎゅう、と目を瞑った。フロイドはその隙に、彼女の舌に軽く歯を立てた。吸血鬼のように、かぷり、と彼女の舌にフロイドのトゲトゲとした歯が沈む。ぴりっ、とした刺激に、彼女の口から甘い声がもれる。

「あんっ、やらぁっ」
「むりっ」
「ふ、ふろっ、ひゃつ、んんっ」

 一番甘ったるい声だった。その甘ったるい声に興奮したフロイドは我慢が出来なくなって、隙間なく唇を塞いで、彼女の口に深く舌を差し込んだ。フロイドの舌が彼女の舌を絡みとって、ちゅう、と音を立てて吸って、時々甘噛みを繰り返した。ひたすらフロイドに口内を侵され続けた彼女は我慢が出来ずに、腰を揺らしてしまう。そして、そのとき初めて自分の身体の変化に気付いた。フロイドに押し付けた自分の下半身が、妙に熱いのだ。

「だ、だめっ」
「え」

 フロイドはめちゃくちゃ気持ちよくキスをしていたのに、彼女に無理やり引き離され、唖然とする。彼女はフロイドから顔を背けるようにして、俯いている。え、なになに?俺なんかした?別にそんな強く噛んでないし、ぎゅーって締めてもないんだけど?!

「え、やだった?」
「ち、違うよ」
「俺もっと、キスしたい」
「……引かないって約束する?」
「え?ど、どういうこと、ナマエ?」

 彼女の脈絡のない言葉にフロイドは戸惑って、首を傾げる。彼女は真っ赤な顔でもう一度、「引かないって約束する?」と繰り返した。どこか怒っているようにも見える彼女に、フロイドは一先ずこくり、と頷いた。

「ひ、引かない」
「笑わない?」
「笑わない」
「何にも言わない?」
「言わない」
「絶対だよ、絶対だからね?」
「う、うん」

 彼女はフロイドの手をとると、膝立ちになって、自分のワンピースの中へ忍ばせた。え、なに、なにが始まんの?てか、ナマエって、そんな大胆な子だったのぉ?フロイドは目を見開きながらも、彼女の行動を約束通り大人しく見守った。フロイドの手の平を上に向けたまま、足の間へもっていくものだから、彼女の汗ばんだ柔らかい肌に親指や小指が触れる度に、フロイドは喉からゴキュっと捻じれるような音を出してしまう。そして、彼女の足の間の奥へと到達する。フロイドの指先が、押し付けられる。そこは、とても柔らかく、熱かった。もし触れた音がするなら、くちゅり、ときっとそんな音がした。

「ぬ、ぬれてる……」
「何にも言わないでって言ったのに!」

 彼女が赤い目尻を釣り上げて、フロイドを睨む。フロイドはご、ごめん、とらしくもなく、すぐ謝った。フロイドは恥ずかしがる彼女の手をとって、自分のジーンズを押し上げる熱へと押し付けた。彼女はこれはもう可愛らしく、「きゃっ」と声を上げて、フロイドを真っ赤な顔で見上げる。そこに驚きこそはあったものの、嫌悪感はなかったことに、フロイドを内心安堵した。

「俺も、ナマエと一緒」
「……えっと」

 今度はフロイドが「きゃっ」と声を上げたくなった。彼女は恥じらう表情でフロイドを見上げているが、彼女の手は好奇心に負けて、フロイドの下半身を撫でるように触れているのだ。硬いジーンズ生地越しに、人間特有のかたさと、ねつがある。彼女は初めて見る膨らみにはしたないとか、そういう感情が抜け落ちて、輪郭を辿るように小さな手で触れる。フロイドが眉根を寄せて、色っぽい表情で彼女のことを見下ろした。彼女は嬉しかった。フロイドが自分に欲情しているという事実が嬉しくて、フロイドの手の存在を忘れていた。

「ひゃっ」
「んもぉーそんなエロいことしないでよぉ。俺もナマエの触る」
「あっ」

 フロイドの大きな手が全体を包むようにぴったり、と下着越しに触れる。それだけで刺激になる彼女は吐息を漏らした。力加減を探るように、フロイドは弱弱しい手つきで、湿り気を感じる部分を指先を曲げて、くにくにと触れた。「ナマエ痛くない?」フロイドの問いかけに、彼女は目を瞑って、何度も頷く。彼女の下着越しに、フロイドは中指で形を辿るように動かして、柔らかい中で窪んでいる部分を見つけた。そこを少しだけ押し込むように指を動かすと、くちゅっと音がして、彼女がとびきり甘い声を上げた。

「やんっ、えっ、あっ……フロイドくん、忘れて」
「やだ。心のメモリーに記録した」
「もう、なにそれ」

 真顔で言い切るフロイドに、彼女は思わず笑ってしまう。相変わらず彼女の頬は赤かったけれど、感じているのが自分だけではないと分かったからか、少しだけリラックスしているようだった。逆に、フロイドは素直に感じている彼女に、何気なくずっと自分の熱を撫で回す彼女に、むくむくと興奮と欲求が大きくなって、もっと彼女に触れたかった。油断すると、息が荒くなってしまいそうなくらいだった。

「ナマエ」
「ん」
「俺もっと、したい」
「……それは、その」

 フロイドは彼女の手に自分のねつを擦り付けるように、腰を動かした。彼女は再びフロイドと近くなった視界で、フロイドが甘えるように眉を下げて、なおかつ甘い声でそんなことを言ってくるものだから、嫌でも彼女の胸も、お腹の下の方も、きゅん、としてしまう。ああ、私フロイドくんに求められて、嬉しいって思ってる。彼女が口ごもると、さらに甘えるように、フロイドの腰の動きが大きくなって、彼女の手を自分の手で固定させて、ぐりぐりと自分の熱を押し付けた。

「さ、最後までするって、こと?」
「……イヤ、それは無理だと思う。その、色んな問題で」

 珍しくフロイドが歯切れが悪かった。小さな声で、俺でかいし、ナマエ小さいし……と聞こえてきた。そこで初めて彼女は、そういった意味で、フロイドとの身長差を意識した。

「だから、今日はこうやってしたいの」
「あっ、フロイドくんっ」

 フロイドは彼女のスカートから手を抜くと、彼女の腰を掴んで、自分の熱に押し付ける。彼女は下着越しとは言え、十分感じ取れる刺激に、腰をびくびくっと揺らす。

「やば、きもちいい」
「んう、ふあっ」

 フロイドは彼女の腰を抱き込んで、ぐいぐいと自分の熱を押し付けて、次第に我慢ができなくなって、下から突き上げるように動いた。彼女は揺さぶられる度に、まるで挿入されているような錯覚を受けた。もう完全に彼女は濡れていて、下着がべったりとくっ付いていた。くちゅくちゅ、と彼女は圧迫されるもどかしい刺激に腰を揺らして、フロイドにキスをねだった。フロイドはぐっと眉を寄せて、大きな手で彼女の後頭部を掴むと、本当はこうやってナマエの中に入れたいとでも言うように、熱い舌を差し込んで、ぐちぐちと舌を絡ませた。

「んんっ、ふっ、はぅっ」
「ん、ナマエっ」

 フロイドに触れられると、気持ちが良かった。それが大きい手でも、熱い舌でも、それこそどうなるのか分からない硬いねつでも、気持ちが良かった。正直、舌どうやって動かせば分からなくて、フロイドにされるがまま、ぐちぐちと舌同士を擦り合って、絡ませていた。ただただフロイドからの刺激を享受することも、気持ちが良かった。彼女はぼーっとする心地よさに、考えないまま腰を動かす。勝手に動くのだ。ゆらゆら、とフロイドの腰の動きに合わせて、お互いが気持ち良くなりたくて。フロイドのジーンズを汚してしまうかもしれないのに、止まらなかった。

 彼女がフロイドとのキスに夢中になっていると、不意にフロイドが彼女を強く抱き込んで、唇を離した。彼女の口から無意識に、「え……」と声が漏れた。寂しくて、物足りなくて、とても恥ずかしい表情と声を出してしまった自覚は彼女にはなかった。フロイドが離れることが寂しくて、嫌で、どうして?とフロイドを見上げることしか出来なかった。フロイドはそんな彼女に、困った顔をして、ちゅ、ちゅ、と触れるだけのキスをしながら、手をカチャカチャと動かしていた。

「んっ、んう」
「ふふ、ナマエはキス好きだねぇ」

 ん、好き、と素直に言おうとして、彼女はん?と首を傾げる。カチャカチャ?この金属音は?たしか……と考えを巡らせる前に、彼女の下着越しに、生々しい感触がした。

「えっ、え!?」
「ん」
「ふ、ふふ」

 驚いている彼女が逃げないように、フロイドは彼女をぎゅう、と抱き締める。すりすりと、彼女の頬に頬ずりをして、だってと子どもっぽく口を開いた。その間も、生々しい感触は下着越しに、ぐちゅぐちゅっと彼女を刺激していた。

「擦れて痛かったんだもん」
「……そ、そっかぁ」
「ナマエは痛くないの?」
「わ、私は痛くないよ」
「ふぅん。女の子は痛くないのかなぁ」
「ど、どうなんだろうねぇ」

 彼女は熱に浮かされていた頭が冷静になっていく感覚がして、たらたらと冷や汗をかき始めた。やけに、身体に降りかかる温かな日差しの存在に、自分が、どこで、なにを、しているのかを実感して、何とも言えない羞恥心が彼女を襲う。そんな彼女の状態なんて知らないとでも言うように、フロイドはワンピースを手を忍ばせた。汗ばんだ大きな手が彼女の太ももを撫でて、心もとないオシャレ重視の下着に触れる。フロイドが彼女の耳もとで囁いた。色っぽく、甘ったるい声は再び彼女に熱を与えていく。

「これ脱がしてもいい?」
「えっ」
「直接ナマエに触りたい」
「!」

 フロイドはどちらの所為か分からないくらい濡れてしまっている先端で、彼女の下着を横にずらした。先ほど指先で見つけた小さな窪みを探すために、フロイドは先端をぐちゅぐちゅと押し付ける。彼女はとろとろになった場所に、擦るだけの柔い刺激に眉を寄せて、腰を揺らしてしまう。やけに、履いている下着がもどかしかった。彼女はフロイドの肩に顔を埋めると、こくこく、と何度か頷いた。フロイドは彼女の答えに、すぐに下着を脱がした。

「あっ」
「やばっ、ほんときもちい」
「あっ、んっ、ふろいどくんっ」
「ん、ちゅーね、ナマエ」
「んっ、ふぁっ、やぁ」

 何の隔たりもなく、互いの熱を擦り合う単純な行為はとても気持ちが良かった。フロイドは蕩けた顔で自分を見上げるナマエの唇を塞ぎながら、夢中で腰を動かした。彼女はワンピースはきちんと着たままなのに、その中はフロイドにぐずぐずにされているギャップに、背中がぞくぞくとして、余計にとろり、と内ももを汚してしまった。ぐちゅぐちゅっと濁った音が嫌でも、耳につく。フロイドに揺さ振られる視界の中で、彼女は自分がこんなにも高く甘ったるい声が出せるのか、と他人事にように思っていた。そうでもしないと、自分が保てなかった。

 フロイドが意図的なのか分からないけれど、一等感じると言われているところがかたくなって、主張している部分を、フロイドのものが擦り上げる。その度に、彼女は腰を揺らして、口から声をもらした。何かが高まって、意識が持ってかれそうな、落とされそうな、自分が知らない感覚が怖くて、ひたすらフロイドに掴まって、フロイドにキスをせがんだ。

「んっ、あっ、やっ、ふろいどっくんっ」
「ん?ナマエイキそう?」
「わ、わかんなっ、あんっ、やっ」

 彼女の呼吸が短くなって、がくがくと足が震える。膝立ちが苦しくなって、落っこちそうになると、フロイドが腰を支えてくれた。でも、腰の動かすのは止めてくれなかった。ぐちぐち、と音が大きくなって、彼女は悲しくもないのに、涙が溢れて、フロイドが滲んで見えなくなる。彼女はうわ言のように、だめだめ、と繰り返した。そんな彼女をなだめるように、フロイドは強く抱き締めて、彼女の耳元であまぁく囁いた。

「だいじょうぶ。
 ナマエ気持ちよくなっていいよ。俺がちゃんと見ててあげる」
「あっ、もっ、あぁっ、いやっ、だめっ」

 くちゅくちゅ、とフロイドのものが、容赦なく硬くなった部分を擦り上げる。ピリッと強いのに、甘い刺激が彼女を襲って、彼女はびくんっ、と身体を大きく震わせて、フロイドの胸に倒れ込んだ。

「はぁ、はぁっ」
「ン、ナマエ上手にイケて偉いねぇ、いいこいいこ」
「ん、うん?うん……いいこ?」
「ウンウン、ナマエはいい子だから、もうちょっとだけ付き合ってねぇ」
「え?あっ、ふろっ」
「俺もすぐ、だからさっ」

 一度収まったと思った熱がもう一度ぶり返す。彼女は眉を寄せて、苦しそうに、息を乱すフロイドに、胸をきゅう、と締め付ける。正直息が苦しいし、なんだか身体が重たい。でも、前髪をぺたん、と額に引っ付けて、頬を赤くして、自分を求めるフロイドを見るのは気分が良かった。彼女は力の入らない腕をフロイドに回して、自分からフロイドにキスをした。「きゃっ」フロイドが大きく腰を動かして、視界がぶれる。彼女の細い腰を掴むフロイドの手に、力が入る。ぐちゅぐちゅっ、擦り合う部分が熱くて、たまらない。フロイドはこのまま溶けそうだなぁ、と思った。ああ、でも、ナマエのココに、入っちゃったら、俺本当に溶けちゃうかも。小さな窪みは口を開いて、フロイドにちゅうちゅう、吸い付いてきた。その刺激に、フロイドはぎり、と奥歯を噛み締める。

「ふろ、いどくんっ、はいっちゃうっ」
「ン、もう、すぐだからっ」
「あっ、やだっ」
「ごめっ、むり」

 フロイドは小さく開いた口に先端を押し付けると、そのままぐりぐりと押し付けた。彼女は柔く執拗な刺激に、再び意識が飛びそうな感覚を味わった。やばい、これ、やばい。フロイドは慌てて、小さく開いた口から離して、彼女の薄い腹に押し付けた。すべすべとした肌に、何度かぐちぐちと擦り付けたとき、フロイドも意識が飛ぶような感覚を味わった。

「うっ」
「あっ、ふろいどくん……」
「ごめっ、やば、止まんないっ」

 彼女は自分のお腹に当たる熱い感覚に、なんだろう、と内心首を傾げる。まるで、ホースの出口を指で押さえて、勢いよく出る水のような刺激だった。ビシャビシャと自分の腹にかかる熱いものに、何故かやけに下腹部が疼いた。フロイドは余韻に浸るように、彼女の柔い腹にぐちぐち、擦り付けた。彼女はフロイドに強く抱き締められながら、襲ってくる微睡に抗えず瞳を閉じた。


「はあっ……やべ、めっちゃ出た。
 あれ、ナマエ?」
「……」

 フロイドはやけに静かな彼女を子猫を持ち上げるように、脇に手を差し込んで、持ち上げる。彼女はすぅすぅと眠っているようだった。頬は薄っすらと赤く、前髪はおでこに引っ付いていた。フロイドはそんな彼女がとても愛らしく見えて、汗ばんだ前髪を避けて、白いおでこへキスをひとつ。

 そして、ワンピースの上からでも分かる濡れている跡に、頬を引き攣らせた。俺出し過ぎじゃない?ぺろん、と彼女の意識がないことをいいことに、フロイドはワンピースを捲る。そこには目を逸らしたくなるほど、彼女の白い腹を汚している精液があった。べったり、とかかってしまっている。これ、ワンピースにもかかってるよね……。ふと、フロイドは好奇心が押さえられず、まだくちゅくちゅと濡れている部分へ指を滑らした。人差し指を入れようとして、すぐに引っ込めた。せまくない?え?戸惑いながら、小指ならいけるだろうか。小指を慎重に、ゆっくりと、くちゅり、と差し込む。第一関節のところまで入りかけたときに、彼女が唸って、大きく眉を寄せた。

「!」
「……んっ」

 彼女は痛がっているようだった。フロイドはてらてらと濡れた小指を見つめて、小さく震えた。

 ……ナマエの中に、俺の入んの?

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