更新とか

雛菊サブ見出し

(´・ω・)

今日仕上げたい_(:3 」∠)_

3/24(金)
0
 お店を出て、彼女は怪訝な顔をしていた。

「イデアくん本当に食べた……?」
「食べたよ。ルル氏も僕が食べるところ見てたでしょ」
「見てたけど」

 彼女は標準装備のダッフルコートを着ることで、満腹になったお腹を隠すことに成功した。だが、イデアは隠す必要もないほど、スマートなままだった。彼女はイデアのお腹をじーっと見たが、お腹を凹ましている様子もない。そんな彼女にイデアはタブレットを押し付けて、距離をとる。タブレットアタックを食らった彼女はうべっと変な声を出した。

 ランチというより、ブランチの時間帯だったため、外はまだ明るい。普段なら、友達とこれから遊びに行ったりするけど。イデアくんはもう帰るかな?彼女は既に歩き出しているイデアに付いて行く。方向的には、いつもの公園に戻っているはずなので、どうやらイデアは彼女を送ってくつもりらしい。

「イデアくん、もしかして食べても太らない体質?」
「うん」
「え、ルピナちゃんと一緒だ!」

 いいなぁと彼女が頬を膨らませる。いや、ルピナちゃんは確か三年後の番外編で、年相応の体型になるんだよな。一人だけ飛び級ってのもあるけど、元々不摂生だったから、初潮も遅くて。だから、食べても太らないって、ゲーム軸のルピナちゃんは勘違いしている。でも、これネタバレだから、言えない。イデアがネタバレに耐えていると、彼女は惜しむように口を開いた。

「今日楽しかったね」
「う、うん、せ、拙者は楽しかったけど、君も楽しかった……?」
「うん」

 恐る恐るイデアが尋ねると、彼女は笑顔で頷いた。その笑顔はいつもより、確かに楽しそうに見えた。イデアは思った。どうかこれが自分の主観ではなく、事実であったらいいと。とろとろと歩くイデアの横を、彼女はのんびりと歩く。彼女はイデアによく質問をした。イデアは彼女に質問されることが嫌いじゃなかった。自分の好きなことに彼女が興味をもって、知ってくれようとすることが、とても嬉しかったし、そんな優しい彼女と一緒にいることが本当に楽しかった。

 ど、どうしよう。あの角曲がったら、ルル氏帰っちゃう。今日が終わったら、もう僕と会う理由がなくなる。いや、もう今の時点でないけど。だって、もう目的イベはクリアしちゃったし。イデアが悶々と考えている間にも、足は進んで、あっと言う間に公園に到着してしまった。彼女の学校へ通じる鏡へ、着いてしまった。

「イデアくん……今日予定ある?」
「え、ええ?」
「もし気力?体力?残ってたら、もう少し一緒に遊ばない?」

 彼女が首を傾げる。正直イデアは気力も、体力も全て限界だった。でも、もう少し一緒に居たい相手にそう言われたら、勝手に首が頷いていた。

1
 彼女は公園の中をズンズンと歩いて行く。しかも、何かルートがあるようで、真っ直ぐ行けばいいところをわざと茂み通ったり、花壇の周りを三周したり。そして、いつもの彼女が学校へと帰って行く鏡の前へ到着した。じょ、女子校に侵入なんて無理!捕まる!と怯えるイデアの手を、だいじょうぶ!と引いて、彼女は鏡の中へと飛び込んだ。

「ルル氏、ここは……?」
「ここね、うちの卒業生が勝手に作った“場所”。三年生になると、先輩に教えてもらえるんだ」

 イデアは目を開いて、驚いた。鏡の先は、白い教会だった。彼女はイデアの手を引いて、教会の外へと出る。そこには、御伽噺の世界が広がっていた。優しい陽だまり、心地いい風で揺れる木々、そして野原をかけていくリスやウサギたち。異空間、本物に見間違うほどの動物や植物。彼女は教会のすぐそばにある石像に、手をかざして魔力を注ぐ。

「へえ。その石像がこの空間の動力源で、そこに魔力をチャージすることで、この空間が維持できてるのか」
「すごい!イデアくんよく分かったね!」
「ま、まあ、専門分野に近いですし」

 でも、あくまで拙者の専門分野に近いってだけ。ここはバーチャルなんかじゃない。別次元に本当に実在させている場所。分かりやすく言うなら、うち(NRC)の寮がある亜空間みたいなモンか。

「昔の先輩たちが自分の得意分野をそれぞれ組み合わせて、作ったんだって。この空間を維持する為に、三年生は順番で定期的に魔力を注ぐ決まりなの」
「でも、あの量の魔力でこれだけの空間を維持する仕組み……」
「気になる?」

 彼女はブツブツ呟くイデアの顔を覗き込む。バーチャルデイスクを展開して、分析を進めようとしていたイデアはハッと我に返る。な、なんでルル氏はここに僕を連れて来てくれたんだろう。そもそも、僕男子だけど、入っていいの?イデアは自分の胸に両手を引き寄せて、しどろもどろに言葉を繋げる。

「し、仕組みも気になるけど……、ルル氏はなんでここに連れて来たの?」
「ここ誰もいないから、良いかなって思って」

 イデアくんと遊ぶには持ってこいの場所だ。ここだったら、人目がない。イデアくんもリラックスできるはず。

「え、誰も?ルル氏と同じ三年生は遊びに来れるんじゃ……?」
「もちろん。遊びに来れるけど、今日は私が魔力当番だから」
「ど、どういうこと?」
「暗黙の了解なんだよ。魔力当番の子以外は、ここに入っちゃいけないの」
「な、なぜ?」
「うち女子校でしょ?」
「う、うん?それとなんの関係が?」
「学校に、ましてや寮に男の子連れ込めないから、だったら連れ込める場所作ろうってなって」
「……えっ、まさか!?それがここ!?」
「そう。先輩たちのバイタリティすごいよね」

 彼女はくすくす笑って、イデアは顔を真っ赤にした。つつ、連れ込むって!?えっ、ルル氏どういうつもり!?混乱するイデアを余所に、彼女は普段と立場が反対だなとご機嫌だった。いつもは私が質問してばかりだから、イデアくんにいっぱい質問されるの新鮮だなぁ。

「ここならイデアくんといっぱいできるし」
「え、ええっ!?いっぱい!?」

 ルル氏!?ここで一体何する気!?イデアがあらぬことを考えていると、彼女はゴソゴソとショルダーバッグからスッイチを取り出した。

「スピナちゃんの続き!」
「そ、そだね!マジどきね!」
「うん」

 彼女はイデアの手を引いて、この環境には不似合いな人工的な造りのベンチへ連れていく。このベンチももちろん、卒業生が作ったものだ。彼女が腰を下ろすと、イデアも隣にちょこんと座った。タブレットの距離感で座ってしまい、かなり近かったがイデアの意識は既にゲームにあったので、気が付かなかった。

「今日やっとルピナちゃんの過去イベントっぽいし」
「いやー拙者も楽しみでしたわ」

 ルル氏がルピナちゃんの過去見て、どれだけ泣くか。絶対ルル氏のことから、ボロ泣きだろうな。拙者もめっちゃ泣いたし。そんなイデアの思惑を知らない彼女は楽しみだなぁとセーブをロードした。

2
「る、ルピナちゃん家族のために頑張ってたんだ……」
「ルル氏、ハンカチどぞ」
「ありがとう……これからは私が居るからね、一緒に未来を変えて行こうね」

 ぐずぐず泣く彼女は泣き過ぎて咳き込んだ。うーっと唸る彼女の背中をイデアが撫でてやると、彼女は甘えるようにイデアに擦り寄った。イデアの胸にもたれかかって、ぴいぴいと泣く姿はまさに子どものようだった。イデアはなんだか懐かしい気持ちで彼女をあやしてやった。小さい頃のオルトも、全力で泣いてたな。ルル氏って本当に五歳児ですわ。てか、これルピナちゃんルートの主人公の心境では?ルピナちゃんを最初は妹的な存在だと思ってたけど、女の子として意識しちゃうヤツ……。

「ルピナちゃんの過去を思うと、心が痛いけど。主人公に会えて、本当によかった……」
「ルピナちゃんルートは救いが半端ないですからなそう思うのも無理はない」
「イデアくん……どうしよう」
「ん?」
「私ルピナちゃんに情が湧き過ぎて、他のルートができるか心配になってきた……」
「あーそれは分かりますぞ。拙者も推しのルートやった後、その心配味わいましたわ」
「大丈夫だった?」

 イデアは彼女の質問にニヤリと笑って、頷いた。

「マジどきの魅力は何と言っても、主人公がどのヒロインにとっても欠かせない存在になるという完成度の高いストーリー性。ルル氏の心配は無用。気付いたら、次のルートに夢中になってること間違いなし!」
「ふふ。イデアくんに言われると、そんな気して来た」
「ルル氏……次は」

 ビシッと二人が固まる。ふたりはやっと自分達の距離の近さに気付いたのだ。彼女は咄嗟にごめんと口にして、イデアは何も言えないまま、二人は身体を離した。

 互いに、自分の心臓の音しか聞こえない時間だった。彼女は手元で幸せにそう笑うルピナちゃんを見て、空気を変えようと口を開く。

「ま、マジどきって本当にストーリーとキャラクターの魅力だよね。私あんまり恋したいなーとか思ったことないんだけど、この二人見てると羨ましくなって来ちゃった」
「……た、た確かに。マジどきは人を好きなる事の尊さ素晴らしさを思い出させてくれますな」※口調微妙※
「そうそう。すごく誰かを好きになってみたくなるな……私には縁のない話だけど」
「ルル氏が!?」
「え、うん……でも、イデアくんはカッコいいし頭もいいし優しいから、すぐ恋人できそう」
「マ?ルル氏正気?」
「え、ええ、正気だよ」
「(ネガティブ捻くれイデア)」
「そんな事ないよ。イデアくん素敵だから大丈夫だよ」
「いやいやそういうしかないもんね。ごめんね、気使わせて」

 かなり捻くれるイデアに、彼女もヒートアップしていく。

「本当だよ!イデアくん素敵だもん!」
「はいはい。流石優しいルル氏」
「……」

 彼女は頬を膨らました。イデアはそっぽを向いているから気付かない。基本的に彼女のことを5歳児だと思っているからイデアは彼女に優しい。でも、このことに関してだけは譲れない。

「好きなところに没頭できるところ」
「え?」
「好きなことを話してる時の顔が楽しそうでいい」
「ルル氏?」
「色んなこと知ってる。頭良い。オルトくん、弟思い!背が高い!」
「ちょ、急になに」

 いきなりイデアが該当すると思われる特徴を上げる彼女にイデアは怯える。彼女はムッとした顔のままイデアを見上げる。ルル氏睨んでもあんまり怖くない顔してるな。

「イデアくんが自覚のないようだから教えあげようと思って」
「!?」
「イデアくんの素敵なところ私が教えてあげるね」

 自分が素敵だと思って欲しいところと、相手が素敵だと思うところは必ず一致しない。

「わーわーわかった。分かったから、これ以上やめて」

 イデアのいいところをいっぱい上げて、イデアに打ち勝つルルちゃん。

「でもさ、僕が素敵なことが事実だとしても、僕の素敵なところを知ってくれる人間がいるとは思えない」
「イデアくん人間は誰しも赤の他人なんだよ」
「ルル氏気に入ったセリフすぐ使いたがる人でしょ」
「うん」

3
「逆を言えば、イデアくんの素敵なところ知ってもらえれば、こっちのもんってことでは?最初頑張れば、あとは何とかなるよ」
「何とかって、不確かなことは好きじゃない」
「えー」
「てかさ」
「?」
「そこまで言うなら、ルル氏が僕と付き合ってよ」
「エッ」
「ほら、やっぱりその反応……」
「え、えー?それとこれとは話は別って奴じゃ……」
「奴じゃないね」
「うっ」
「ほらね。僕を好きになってくれる人なんていないんだよ。ましてや恋人になってくれる子なんて……こんないんきゃなオタクなんかと」
「……ぐっす」
「!」

 人間とは愚かな生き物である。過去に犯した失敗を繰り返してしまう生き物なのだから。イデアは鼻をすする音に大袈裟なほど、肩揺らして、ギギギと横を振り向く。本当は振り向きたくなかった。イデアの横で、彼女は初めて二人で話したときのように目を潤ませている。今にも、涙が目から溢れそうだった。

「あばばば」
「……イデアくん」

 拙者のバカー!ルル氏は純粋ピュアピュアの五歳児!そんな大事なことを忘れてしまうとは!ぐずぐず泣く彼女に、イデアは意味もなく両手を伸ばそうとして引っ込める。その仕草を繰り返していると、小さな両手がイデアの両手を捕まえる。イデアはヒェと悲鳴を上げる。

「後悔するよ」
「えっ、確かに拙者と付き合ったら、ルル氏間違いなく後悔させちゃうけど」
「違うよ、イデアくんが後悔しちゃうよって言ってるの」
「ぼ、僕!?」
「お付き合いする相手、そんな適当に決めていいの?イデアくんが困る事になるよ」
「な、なな、んで?」
「……だって」
「だって?」

 彼女がきゅっと唇を噛む。一瞬目を伏せて、涙がポロリとこぼれ落ちる。ルル氏やっぱりヒロイン素質ありすぎでは?泣き方綺麗すぎか?彼女の目と鼻の頭は痛々しく真っ赤になっていた。じっといつもイデアを優しく見つめてきた瞳が、真っ直ぐイデアを見上げる。

「私が本当にイデアくんのこと好きになったら、どうするの?」
「へッ」
「イデアくんは私のこと好きじゃないのに、私だけ好きで。でも恋人なんて……私は、やだよ」
「じゃ、じゃあ、そうなったら、ルル氏が頑張って」
「えッ」
「僕がルル氏のことが好きになるよう。ルル氏が頑張ってよ」
「……イデアくんすごい理不尽なこと言ってるの自覚ある?」

 なぜか彼女は怒りも呆れもせずに、楽しそうに頬を緩めている。あるよ、すごく。自分で何言ってんだろうって。でも、迷ってる間にルル氏と離れ離れになるのは嫌だから、なんとか繋がり持とうとして必死なんだよ。

「そもそも言い出しっぺはルル氏ですし」
「えーそういうこと言う?」

 くすくす笑っていた彼女があっと呟くと、もじもじと自分の人差し指をちょんちょんと合わせる仕草をする。イデアは本当にその仕草する人類いたのかと驚いた。

「そ、そもそもさ、イデアくん……私のこと異性として見れるの?」
「え?」
「だ、だだって、恋人になるって、そういうことでしょ?た、確かに、プラトニックな関係もあるかもしれないけど。そうじゃないなら、その……」
「ま、まっ」

 嫌な予感がする。イデアは彼女に待ったをかけようとするが間に合わない。彼女はふるふると羞恥心で震えながらも、言い切った。大事なことだから。

「き、キスとか、え、えっちなこととかするでしょ。い、イデアくんは……私と、そういうこと、できる?」
「……」

 ぴしり、とイデアは固まる。真っ青を通り越して、真っ白になったと思ったら、真っ赤になる。髪も、頬も、首も耳も全て、桃色に染まった。ぷるぷる震えて目を瞑ったままの彼女は気付かない。ちりちりとパチパチと花火のような音が聞こえて、ゆっくりと目を開く。そこには固まっているイデア。彼女は羞恥心に襲われて、また新たなに涙を溢そうする・

「そもそもイデアくんは自分のことを異性として見れるのか!?」と質問されて、きょどるイデア。

と、ヒロインは言うが、そもそも素敵な所を知って貰うまでの壁が高いと言うイデア。なら既に素敵なところを知ってる女の子に狙いを定めてみては?と言うヒロインに、
「いや、君以外にいないんだけど……」
「oh……」
「え、その反応なに」

2023.03.24 10:37

- ナノ -