更新とか

雛菊サブ見出し

(´・ω・)

:;(∩´`∩);:


 お店を出て、彼女は怪訝な顔をしていた。

「イデアくん本当に食べた……?」
「食べたよ。ルル氏も僕が食べるところ見てたでしょ」
「見てたけど」

 彼女は標準装備のダッフルコートを着ることで、満腹になったお腹を隠すことに成功した。だが、イデアは隠す必要もないほど、スマートなままだった。彼女はイデアのお腹をじーっと見たが、お腹を凹ましている様子もない。そんな彼女にイデアはタブレットを押し付けて、距離をとる。タブレットアタックを食らった彼女はうべっと変な声を出した。

 ランチというより、ブランチの時間帯だったため、外はまだ明るい。普段なら、友達とこれから遊びに行ったりするけど。イデアくんはもう帰るかな?彼女は既に歩き出しているイデアに付いて行く。方向的には、いつもの公園に戻っているはずなので、どうやらイデアは彼女を送ってくつもりらしい。

「イデアくん、もしかして食べても太らない体質?」
「うん」
「え、ルピナちゃんと一緒だ!」

 いいなぁと彼女が頬を膨らませる。いや、ルピナちゃんは確か三年後の番外編で、年相応の体型になるんだよな。一人だけ飛び級ってのもあるけど、元々不摂生だったから、初潮も遅くて。だから、食べても太らないって、ゲーム軸のルピナちゃんは勘違いしている。でも、これネタバレだから、言えない。イデアがネタバレに耐えていると、彼女は惜しむように口を開いた。

「今日楽しかったね」
「う、うん、せ、拙者は楽しかったけど、君も楽しかった……?」
「うん」

 恐る恐るイデアが尋ねると、彼女は笑顔で頷いた。その笑顔はいつもより、確かに楽しそうに見えた。イデアは思った。どうかこれが自分の主観ではなく、事実であったらいいと。とろとろと歩くイデアの横を、彼女はのんびりと歩く。彼女はイデアによく質問をした。イデアは彼女に質問されることが嫌いじゃなかった。自分の好きなことに彼女が興味をもって、知ってくれようとすることが、とても嬉しかったし、そんな優しい彼女と一緒にいることが本当に楽しかった。

 ど、どうしよう。あの角曲がったら、ルル氏帰っちゃう。今日が終わったら、もう僕と会う理由がなくなる。いや、もう今の時点でないけど。だって、もう目的イベはクリアしちゃったし。イデアが悶々と考えている間にも、足は進んで、あっと言う間に公園に到着してしまった。彼女の学校へ通じる鏡へ、着いてしまった。

「イデアくん……今日予定ある?」
「え、ええ?」
「もし気力?体力?残ってたら、もう少し一緒に遊ばない?」

 彼女が首を傾げる。正直イデアは気力も、体力も全て限界だった。でも、もう少し一緒に居たい相手にそう言われたら、勝手に首が頷いていた。


 彼女は公園の中をズンズンと歩いて行く。しかも、何かルートがあるようで、真っ直ぐ行けばいいところをわざと茂み通ったり、花壇の周りを三周したり。そして、いつもの彼女が学校へと帰って行く鏡の前へ到着した。じょ、女子校に侵入なんて無理!捕まる!と怯えるイデアの手を、だいじょうぶ!と引いて、彼女は鏡の中へと飛び込んだ。

「ルル氏、ここは……?」
「ここね、うちの卒業生が勝手に作った“場所”。三年生になると、先輩に教えてもらえるんだ」

 イデアは目を開いて、驚いた。鏡の先は、白い教会だった。彼女はイデアの手を引いて、教会の外へと出る。そこには、御伽噺の世界が広がっていた。優しい陽だまり、心地いい風で揺れる木々、そして野原をかけていくリスやウサギたち。異空間、本物に見間違うほどの動物や植物。彼女は教会のすぐそばにある石像に、手をかざして魔力を注ぐ。

「へえ。その石像がこの空間の動力源で、そこに魔力をチャージすることで、この空間が維持できてるのか」
「すごい!イデアくんよく分かったね!」
「ま、まあ、専門分野に近いですし」

 でも、あくまで拙者の専門分野に近いってだけ。ここはバーチャルなんかじゃない。別次元に本当に実在させている場所。分かりやすく言うなら、うち(NRC)の寮がある亜空間みたいなモンか。

「昔の先輩たちが自分の得意分野をそれぞれ組み合わせて、作ったんだって。この空間を維持する為に、三年生は順番で定期的に魔力を注ぐ決まりなの」
「でも、あの量の魔力でこれだけの空間を維持する仕組み……」
「気になる?」

 彼女はブツブツ呟くイデアの顔を覗き込む。バーチャルデイスクを展開して、分析を進めようとしていたイデアはハッと我に返る。な、なんでルル氏はここに僕を連れて来てくれたんだろう。そもそも、僕男子だけど、入っていいの?イデアは自分の胸に両手を引き寄せて、しどろもどろに言葉を繋げる。

「し、仕組みも気になるけど……、ルル氏はなんでここに連れて来たの?」
「ここ誰もいないから、良いかなって思って」

 イデアくんと遊ぶには持ってこいの場所だ。ここだったら、人目がない。イデアくんもリラックスできるはず。

「え、誰も?ルル氏と同じ三年生は遊びに来れるんじゃ……?」
「もちろん。遊びに来れるけど、今日は私が魔力当番だから」
「ど、どういうこと?」
「暗黙の了解なんだよ。魔力当番の子以外は、ここに入っちゃいけないの」
「な、なぜ?」
「うち女子校でしょ?」
「う、うん?それとなんの関係が?」
「学校に、ましてや寮に男の子連れ込めないから、だったら連れ込める場所作ろうってなって」
「……えっ、まさか!?それがここ!?」
「そう。先輩たちのバイタリティすごいよね」

 彼女はくすくす笑って、イデアは顔を真っ赤にした。つつ、連れ込むって!?えっ、ルル氏どういうつもり!?混乱するイデアを余所に、彼女は普段と立場が反対だなとご機嫌だった。いつもは私が質問してばかりだから、イデアくんにいっぱい質問されるの新鮮だなぁ。

「ここならイデアくんといっぱいできるし」
「え、ええっ!?いっぱい!?」

 ルル氏!?ここで一体何する気!?イデアがあらぬことを考えていると、彼女はゴソゴソとショルダーバッグからスッイチを取り出した。

「スピナちゃんの続き!」
「そ、そだね!マジどきね!」
「うん」

 彼女はイデアの手を引いて、この環境には不似合いな人工的な造りのベンチへ連れていく。彼女が腰を下ろすと、イデアも隣にちょこんと座った。タブレットの距離感で座ってしまい、かなり近かったがイデアの意識は既にゲームにあったので、気が付くことはなかった。

「今日やっとルピナちゃんの過去イベントっぽいし」
「いやー拙者も楽しみでしたわ」

 ルル氏がルピナちゃんの過去見て、どれだけ泣くか。絶対ルル氏のことから、ボロ泣きだろうな。拙者もめっちゃ泣いたし。彼女はぽちぽちとセーブデータをロードした。


「る、ルピナちゃん家族のために頑張ってたんだ……」
「ルル氏、ハンカチどぞ」
「ありがとう」
「これからは私が居るからね、一緒に未来を変えて行こうね」

 ぐずぐず泣く彼女は泣き過ぎて咳き込んでいた。うーっと唸る彼女の背中をイデアが撫でてやると、彼女はイデアに擦り寄って来た。イデアの胸にもたれかかって、ぴいぴいと泣いた。イデアはなんだか懐かしい気持ちで彼女をあやしてやった。小さい頃のオルトも、全力で泣いてたな。ルル氏って本当に五歳児ですわ。

「ルピナちゃんの過去を思うと、心が痛いけど。主人公に会えて、本当によかった……」
「ルピナちゃんルートは救いが半端ないですからなそう思うのも無理はない」
「イデアくん……どうしよう」
「ん?」

 イデアは自分の胸を見下ろして固まる。待って、この距離感。やばくない?

「私ルピナちゃんに情が湧き過ぎて、他のルートができるか心配になってきた……」
「あーそれは分かりますぞ。拙者も推しのルートやった後、その心配味わいましたわ」
「大丈夫だった?」

 イデアは彼女の質問にニヤリと笑って、頷いた。

「マジどきの魅力は何と言っても、主人公がどのヒロインにとっても欠かせない存在になるという完成度の高いストーリー性。ルル氏の心配は無用。気付いたら、次のルートに夢中になってること間違いなし!」
「ふふ。イデアくんに言われると、そんな気して来た」
「ルル氏……次は」
「」

<メモ>
 ヒロインは対面が苦手な人が頑張ってるなって思ってる中、優しくて人が良いヒロインを好きになるチョロいイデア→
「イデアくん素敵だから大丈夫だよ」
と、ヒロインは言うが、そもそも素敵な所を知って貰うまでの壁が高いと言うイデア。なら既に素敵なところを知ってる女の子に狙いを定めてみては?と言うヒロインに、
「いや、君以外にいないんだけど……」
「oh……」
「え、その反応なに」

2023.03.23 08:37

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