更新とか

雛菊サブ見出し

(´・ω・)

日記

6話

0待ち合わせ

 待ち合わせはいつもの公園。もう今までの付き合いで、彼女が早めに行動することは分かっていた。この前みたいにルル氏が絡まれてたらイヤだし。イデアは予定よりもかなり早めに到着したのはいいが、失神しそうになっていた。朝の公園予想より人多ッ!ジョギングする老夫婦、これからピックニックにでも行くのであろう親子連れ、そして唯一の癒しワンコのお散歩。そうだった。世間では日中が活動時間帯なんだ。イデアは普段浴びない健全さに白く燃え尽きそうだった。何より、きゃらきゃらと楽しそうに街へ向かっていく同年代の女子が一番眩しかった。

 とてもじゃないけど。ベンチになんて座ってらんない。イデアは以前のように茂みに隠れて、ふぅと息を吐いた。やはり、拙者は日陰が落ち着きますわ。まだ待ち合わせの時間まであるし。時間が近くになったら、出て行けばいいでしょ。そう思って、ヘッドホンを耳につけて、タブレットでソシャゲを開く。

「そういえばさ、最近ルルよくここで見るよね」

 も、もももしかして、ルル氏の知り合い?友達!?イデアはタブレットを抱き込んで、息を潜める。イデアの心境を例えるならば、ホラーゲームで追い込まれた主人公だろうか。

「NRC生の男の子と遊んでるんだって」
「……男の子いた?」
「ルルのそばにタブレットあったでしょ?」
「あ、青いヤツ」
「ルル曰くリモートで遊んでるんだって」
「へえ、最先端スタイル。でも、ならルルもリモートでよくない?」
「ルームメイトいるから、外の方が気が楽って言ってた」
「それは確かに」

 ルル氏の友達、視界広過ぎ……?なんと言うか、類友って感じ。こんんな子達が周りにいるなら、ルル氏も捻くれることなく育つのかも。イデアが彼女のことについて想いに耽っていると、ガサガサと草を踏む音が聞こえてきた。え、なに、だれ。

 イデアがびくっと怯えて、目をギュッと瞑っていると、聞き慣れた声が聞こえて来た。

「あ、やっぱりイデアくんだ」
「……ルル氏」
「遅くなっちゃってごめんね。気分悪くなっちゃった?」

 イデアが顔を上げると、心配そうに自分を見つめる彼女がいた。彼女はイデアの横にしゃがみ込んで、控え目にイデアの顔を覗き込む。イデアは近ツ!とビビりながら、ゴニョゴニョと口を開く。

「え、えっと……だいじょ、ぶ」
「そっかぁ。良かった……イデアくんこないだと違うね」
「え、え……?」
「えっと、制服!こないだのパーカーもイデアくんっぽくて良かったけど、フォーマルな感じもかっこいいね」
「……」

 あ、やっちゃった?彼女は口を閉じて、イデアを伺いみる。切れ長の目が大きく見開かれ、青白い頬が真っ赤に染まって、青い髪の毛先がピンクに近い赤色になっている。た、多分、照れてるんだよね……?

「……そ、そんなこと、ないよ」
「ええ、じゃあイデアくん立ってみて」
「えっ、ルル氏!?」
「せーのっ!」
「わっ!」

 小さな両手がイデアの両手を掴んで、引っ張り上げる。日陰から日向に引っ張り上げられたイデアはドラマのワンシーンかと思った。葉っぱが舞い上がって、木漏れ日がきらきらと優しく眩しい。その中で、自分を見上げる彼女の瞳が一番眩しかった。

「ほら、やっぱり!今日のイデアくんかっこいいよ」
「……」

 何が、ほら、やっぱりなのか。イデアにはさっぱり分からない。それでも、彼女の目に相変らず嘘はなくて、本当しかなくて、イデアはあ、ありがとうと言うことしか出来ない。その一言だけでも、彼女は嬉しそうに笑う。イデアはチラチラと彼女を見て、むぐむぐと唇をつぐむ。

「……ルル氏、今日ダッフルコート色違うね」

 僕のバカ!その色も似合うねぐらい言え!バカ!イデアが死にたくなっていると、彼女はまた嬉しそうにして、身体軽くひねって見せる。なに、その可愛いポーズ。

「イデアくんの推しに合わせてみたの。あの子も、冬になるとダッフルコート着てたし」
「せ、拙者の推しに合わせてくれたの!?」
「う、うん……け、軽率だったかな?」

 イデアの勢いに、彼女は眉を下げる。オタクは色々と難しいらしいし。彼女がイデアくん怒っちゃったかな……と、無意識のうちに上目遣いでイデアを見上げてしまう。その仕草に、イデアは変な呻き声を上げて、膝を下りそうになる。きょ、今日のルル氏、いつもに増して破壊力が……。

「ぜ、全然。ぼ、ぼ僕は嬉しいけど、ルル氏はいいの?ルル氏の推しはルピナちゃんでしょ?」
「……る、ルピナちゃんの格好はハードル高いから」
「あ、あ……あの子、結構パンチある格好してるよね」
「か、可愛いんだけどね!私があーいう格好はちょっと……キツいと思うから」
「……」

 あはは、と彼女が苦笑いしているが、イデアはそうだろうかと勝手に脳内でシミュレーションを組んでしまう。彼女の推しのルピナちゃんはマジどきのロリ要素も担っている。天才少女ゆえに、飛び級で高校に通っている設定だ。要は合法ロリと言うことである。

 他のヒロインよりも、幼さが残る顔立ちや身体付き。身体は薄っぺらくて、小さい。制服の上からダボっと見せるパーカーを着て、動き辛いという理由でスカートはかなり短め(パンツスタイルは製作陣の拘りなのか意地でも許されない)。極め付けに、ボーダーのニーハイ。ルル氏は年相応に成長してるし……。イデアはいつか見たタイツに包まれた彼女の太ももを思い出した。ルル氏が、ルピナちゃんの格好……。太もも、ニーハイ……。

「イデアくん?」
「え、あっ、拙者別にそ、それはそれでいいなとか、思ってないでござる!」
「え、えぇっと?」
「ご、ごめん。こっちの話!」
「う、うん?問題?ないなら、いいんだけど」

1お店まで
「お店予約してくれて、ありがとう」
「さ、誘ったのこっちだし、何より僕が待つの耐えられないから」
「イデアくんっぽい理由だ」

 ふたりは目的のカフェまで、お喋りをしながらのんびりと向かっていた。公園を出ると、賑わっている市街が待ち構えている。イデアは自分が通って来たときより、活気がある市街にヒェッと悲鳴を上げた。彼女は隅っこ通って行こ、とイデアの手を優しく引っ張ってくれた。イデアは彼女が余りにも、自然に自分の手を取るものだから、特に抵抗することもなく彼女に付いて行く。だが、そこで問題が発生した。

「まさかルル氏が方向音痴だったとは」
「め、面目ない」

 彼女はイデアをリードしながら、自分もイデアのタブレットにリードされていた。公園から目的のカフェまでは、徒歩二十分。のんびり歩けば、そこまでキツい距離ではない。学園物に登場するカフェのモデルとだけあって、現実のカフェも麓の街の中でも、賑わっている場所にあるらしい。比較的若者……学生向けの雑貨やブティックが並ぶ通りを抜けた先に、飲食店が揃っている場所に出る。

「いや、本当に地図読めなくて……地図読めないっていうか、自分がどこに居るのか把握ができてない?って言った方がいかも」
「聞いたことありますぞ。同じ道でも、逆方向から来ただけで、もう分からなくなるって」
「本当にそれなんだよ。だから、学校通い始めたときも大変だったんだよ」
「ふひひ。ルル氏、ゲームのマップでも迷ってましたなぁ」
「だって、似たような構造してるからさ」

 彼女はチラッと雑貨屋に視線を向ける。あのガイコツのキーホルダールピナちゃんっぽいかも。これがイデアくんが言ってた概念グッズってヤツかな。

「でも、自分の部屋に戻れなくて、半泣きになってたの……ふふ」
「もーイデアくん笑いすぎ」

 そう言って、振り返って彼女はギョッとする。イデアの顔色が悪い。イデアくん気付いてない……?表情は楽しそうだし。無理してる様子もないけど……、でも、そうだよね。外出るの得意じゃないって言ってたし。

「イデアくん無事カフェまで連れてくからね!」
「え、なに、怖い。急にフラグ立てるのやめて」

2お店の出来事

「つ、着いた
「お疲れ様イデアくん」

 彼女は隣でよぼよぼしているイデアの背中を撫でてやる。ここのカフェ知ってたけど、初めて来たかも。いつも人が並んでる人気店だもんなぁ。マジどきの作中に出てくるカフェのモデルとなった店は、アンティーク調でファンシー心がくすぐられる。昼間は大きな窓から差し込む太陽光で、温かみのある雰囲気。また夜は、アンティークがさらに雰囲気を増して、どこか不思議な空間に迷ってしまったような気分になれるのだとか。

 非日常が楽しめるコンセプトのカフェ。確かに、マジどきのみんなが気になって、定番デート先にする訳だ。

「お店の中に入ったら、こっちのもんだよ!」
「ルル氏、先入って……店員の対応もお願い」
「まかして」

 イデアは彼女の背中に隠れて、ほっと一息。ルル氏の背中大きく見える。さすが拙者のバディ。彼女が扉を開けると、カランカランと鐘が鳴る。イデアは彼女が開けてくれた隙間をするり、と猫のように抜けて、気を失いかけた。い、一番早い時間帯なのに、もうお店に人がいっぱいいるんだが!?

「いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか?」
「はい、予約したシュラウドです」
「シュラウド様、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
「イデアくん行こ……あれ?イデアくん?」
「な、なんでもない、よ。行こっ」
「う、うん?」 

 ぐいぐいと自分の背を押すイデアに、彼女は不思議に思いながらも、店員へ付いて行く。ちりちりと燃える毛先がまたピンク色になっていた。心なしか毛先がくるくると彼女の指先に絡んでいるような……。

3メインイベント

「すごい二階なんて、あったんだ!」
「そっか。ルル氏はルピナちゃんルートだったから、一階の角っこの席だったんだっけ」
「そう!人目がつくところ苦手だから」
「分かりみ

 彼女は二階のスペースを見渡して、驚いた。屋根裏のような造りながらも、一階と引き続きアンティーク調の雰囲気で、席に座ると、吹き抜けになっているおかげで、一階の様子を見ることができる。彼女はふわふかのソファと、ローテーブルがまたいいなぁと目をキラキラさせた。一階の方がファンシーだけど、こっちウッド感が強いから秘密基地っぽい。

「あ、じゃあ、イデアくんの推しの子は、この席でデートイベント迎えるんだね」
「そ、そう、ここで……」
「ここで?」

 向いに座って、きょろきょろと周りを見て、ゲームの面影を探していたイデアが振り返る。彼女はいつもの調子で、イデアの言葉を待っていた。イデアは彼女のその顔が嫌いじゃなかった。何回も、画面越しに見て来た。彼女はイデアの言葉を待ってて、ちゃんと聞いてくれる人。そんな彼女に拙者は今なんてことを……!

「ルル氏ごめん……せ、盛大なネタバレを!」
「え、大丈夫だよ!ちゃんとネタバレ聞いても、マジどきは全ルートやるって決めてるから!」
「ルル氏!」
「ちゃんとイデアくんと語り合いたいからね。イデアくん、何食べる?やっぱり、イベントで出て来たメニュー?」

 感動するイデアに、彼女はふふっと笑って、メニューを手渡した。

「あ、ありがと」

 イデアはメニュー表を見て、彼女に見て!と子どものようにはしゃいだ。ここのロゴがゲームっぽいとか、このオムライスとハンバーグと、パスタセットがゲームであってとか、このクリームソーダが拙者の好物でとか。丁寧に一個一個報告してくるイデアはとても可愛かった。彼女はうんうんと一緒に楽しんで、結局イデアの推しが食べたものを二人で頼むことになった。

「イデアくん本当に私が食べてもいいの?」
「せ、拙者これ以上食べたら、デザート食べれなくなるので……むしろルル氏に食べさせて、ごめんね」
「全然気にしないで。どれも美味しいし」

 自分のパスタを食べ終わって、彼女はイデアがギブアップしたオムライスをぱくん、と食べて頬を緩ませる。イデアが三分の一しか食べていないオムライスがみるみる消えていく。ルル氏一口大きいのに、綺麗に口入れるなぁ。たまに漫画とかで、女の子が食べるシーン妙にエロく描かれるけど。こんなにハツラツとして食べるところに、エロ要素なんて一つもないのでは?でも、こんなに美味しそうに食べてくれるなら、ちょっと料理作ってみたいかも。ハッ、これルピナちゃんルートの心境でありましたわ!ルル氏と共有したいけど、まだルル氏にはネタバレになる

 イデアは色んな感情を飲み込んで、また思ったことしか言えなくなる。

「ルル氏、意外と食べるんだね」
「……そ、そんなに、かな」

 イデアの言葉に、彼女は目を丸くして、恥ずかしそうに俯いた。チラッとイデアを見る。イデアは自分のことをヒョロガリだなんて言うけれど。今日のイデアはそんな風に見えなかった。NRCの指定のブレザーをきちんと着たイデアはスマートながらも、広い肩幅と高い身長のおかげで、バッチリ着こなしていた。それに対して、自分はどうだろう。もぐもぐしている頬ですら、なんだか恥ずかしくなってきた。イデアくんは自分の魅力に気付いてないだけ、だろうし。

「わ、わわ、ごめん。ルル氏嫌な言い方しちゃった?」
「そ、そういうんじゃないけど。イデアくん背高くてスマートだから、ちょっと……ひ、引き締めた方がいいかなって」

 彼女はそう言って、自分のお腹あたりの肉を摘む。やば、二人分食べたから、お腹出てる。彼女の顔色がイデアの髪色になっていると、ふわふわと擽ったい毛先が彼女の頬に触れる。えっ?と彼女が顔をあげる。

「そう?ルル氏の身長的に健康的で良いともうけど……あ、ぽっこりしてる。ふふ、かわいい」
「……」

 いつの間にかイデアが隣に座っていた。イデアは至極真面目に彼女のお腹周りを見て、単なる事実を口にする。そして、あろうことか彼女のお腹を大きな手のひらで触れて来たのだ。優しい笑い声。長い前髪の下で、切れ長の吊り目がきゅっとなる。あ、イデアくんって、こんな風に笑うんだ。

「そりゃあ二人分食べたもんね、ルル氏……あ」
「……」

 イデアは事態に気付いた。自分と彼女の距離の近さも、今自分が何に触れているのかも。彼女は顔を真っ赤にして、いつかのときのように両手をほっぺに当てている。この仕草は彼女が最大値に照れて、どうしたらいいか分からないときにする癖だ。イデアの腹の底が熱くなって、背中には冷や汗がびっしょり。

「ご、ごごごご、ごめん。ぼ、ぼぼく首吊って、く」
「お待たせしました。パンケーキのプレートと、チョコバナナパフェです」

 カフェの店員は、ふたりが並んで座っていても気にしない。若いカップルによくある光景だからだ。しかも、察しがいい店員は食器を片付けると、デザートもきちんと並べて置いて去って行く。

「……イデアくん」
「は、はぃ」
「デザートのパンケーキ、一口くれたら、いいよ」
「あっ、承知しました」

 結局、ふたりは仲良く並んで、デザートをもくもくと食べることになった。

2023.03.21 20:55

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