1♭

俺の家の近くには古びた大きな屋敷があった。小学生のころにはよくひとりで潜り込んでは遊んでいた。もう何年も前のことだ。どうやって入っていたか、何をして遊んでいたかは記憶にない。最後に行ったのもいつだっただろう。今でも、ただ漠然とその屋敷で遊んでいたという記憶が蘇ってくる。高校を卒業た後は、大学に進学するために故郷を離れた。もう3年は帰っていない。しかし、母親が倒れたと知らされ、様子を見に帰郷することになった。大学4年の夏のことだった。

幸いにも母の容体はさほど悪くなく、疲労と暑さにやられたのだろう、ということだった。
「久し振りに会えて良かったわ」
と母はベットの上で笑った。久し振りに見た母は、最後にあった時よりも痩せて、歳を取ったように見えた。
「たまには連絡ぐらいしなさいよ」
などと少し言葉を交わした後、俺は病院を後にした。病院の雰囲気はどうにも嫌いだ。いつも死と隣り合わせのような気がする。そんなことを考えながら久々の故郷をあるく。離れていたとはいえ、たった3年だ。街に然程の変化はなかった。変わったところと言えば、学生時代によく利用していたコンビニが潰れたことくらいだろう。慣れ親しんだ街でも、いざその建物が無くなるとそこになにがあったか思い出せなくなる。実際家に帰って父にその話をされるまで、なくなっていたことにさえ気づかなかった。
「変わると言えば、近々あの屋敷も取り壊されるそうだよ」
晩飯として俺が作ったインスタントラーメンを食べながら父は言った。
「取り壊されるってなんで知ってんの?」
「業者の人が来てな。この辺道が入り組んでるだろ。屋敷までの道教える時に取り壊しの話教えてもらったんだよ」
「へぇ、持ち主って誰なの」
「あそこの持ち主は何十年も前に死んでるらしい。それ以来ずっと空き家だったんだってよ。お前も小さい頃よく遊んだだろ。取り壊される前に一回いってみろよ」
「そこまでガキじゃねぇよ。あとそれ不法侵入」
夕飯のときはそんな話をしたが、俺は明日にでも一回言ってみようと思った。
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