「じゃあ後でな」


天気予報が告げた通り、今日は晴れのち雨の予報。テレビから流れているそれをただ耳の中にいれては隣ですーすー寝息を立てて眠る孝介を横目で見ながら幸せだなあ、とまた耳の外へと追いやった。


「…ありがとう」


携帯の通話ボタンを押して待ち受け画面へと戻してテロップで流れてくる"大雨注意報"の文字に溜め息をついた。朝確実に雨が降るという情報を取り入れたはずなのだけれど、孝介の顔を見て余韻に浸っていたせいで案の定傘を持って家を出るのを忘れてしまっていた。これを言ったら孝介に確実にどやされるから言わないけど。仕事はいつもわたしより始まりが遅いからわたしが孝介の分の朝食を用意してばたばたと家を飛び出した。そんな彼はというと、きちんと天気予報を確認して傘を持って家を出たのだという。…本当わたしと違ってしっかりしてらっしゃる。わたしの傘が家に置き去りなのを見て、お前んとこの職場まで迎えにいくから待ってて。なんて、電話を先程かけてきてくれた。本当できた彼氏だ。できすぎて困るくらい。

ザーザーと降り頻る雨を眺めながら早く仕事終わらないかなあ、と考えているとチカチカと携帯が点滅して孝介から一通のメールが届いた。

『俺もう終わったから終わる頃連絡して』

メールを読んで、わかった、と打ち込めば自然と頬が緩んでだらしない顔になる。長年一緒にいるけどまだどきどきだってするし嫉妬もする。毎日好きだと言っても足りないくらい。そのくらい大好きだということを。


「孝介はわかってんの?」


携帯の画面を見つめながら何も知らない孝介にツンッと人指し指をはじいた。それから二時間くらいして、ようやく長かった業務も終わり孝介に「もう終わるよ」とメールを打つと数分してすぐ了解とのメールがきた。警報が出てただけあってもう窓の景色が見えず自分の顔が反射して見えるくらいざんざんと降り注いでいた。どうか、雷が鳴りませんように、と祈りながらエレベーターのボタンを押して会社を出て少し肌寒かったけどわざわざ来てくれる孝介に早くお礼を言いたかったため外で待つことにした。


家からわたしの会社までは歩いて10分程度。帰ろうと思えば帰れるけれどこの土砂降りとさっきからビカッと一部が黄色く光りを放っているからそろそろあの忌々しい音が鳴り響きそうでつい身構えた。あぁもうさっきまでは鳴る気配すらなかったじゃん!なんでまたわたしが外に出たら〜ってやばい!これは絶対絶対鳴り響くやつ…!


「……こー、すけっ」


ビカッと暗かった空を照らすように一瞬あたりが明るくなったと同時に目をぎゅっうと瞑りながら耳に手を当てようとした瞬間わたしの手よりも早く何かがわたしの耳を包み込んだ。


「……セーフ」


パッと離されてそんな声が聞こえて振り向くと案の定そこには孝介が立っていた。


「こうすけ」

「雷の音聞こえた?」

「だ、大丈夫だった」


ん、なら良かった。と安堵した顔になったと思いきやすぐにむっとした顔で再度わたしを見た。こ、孝介?顔がこわいぞ…!!


「なんで雷苦手なくせに中で待ってないんだよ」

「だって…」

「だってもくそもねぇつーの!」


わたしに一喝するとおでこをバチんと人指し指で弾く。い、痛い。ごめんなさい、と小さく言って孝介を見ると傘を差していれば濡れないハズの肩や髪の毛が水滴がぽたぽたとついていて、わたしを見つけて走って来てくれたんだなということが分かって申し訳なさでいっぱいになったと同時にその半面すごく嬉しい気持ちで満たされた。ますますわたしの傲慢な性格にばか!と紅潮する胸を抑えた。


「さ、とっとと帰るぞー」

「うんっ」

「あー腹減ったし寒くね」

「あ、今日はね鍋にしようと思ってるんだ」

「まじ?やった」

「ふっふっふっ!お肉いっぱい入れようね!」

「そんなに食うと太るぞ」

「なっ、!!!」

「いって!殴んなばか力!」

「孝介には野菜しかあげないもんねーだ」

「はぁ?迎え来てやったの誰だと思ってんだよ」

「………二人でお肉食べようね」

「素直でよろしい」


ぎゅっともう、一度強く孝介の手を握りしめれば隣で「なんだよ」っていいながらも同じくらいの強さでぎゅう、と握りかえしてくれるぬくもりに胸があたたかくなった。今度雨が降ったら次はわたしが孝介を迎えにいこうかな。と二人で1つの傘の下でザーザーと降る雨も悪くないなと水溜まりを蹴飛ばした。あーあ。幸せだ。