「名前お願い!一回でいいからついてきて!」
「わたしは遠慮する」
「お願いします!お昼、名前が気になってた会社の近場に出来た新しいカフェ奢るから!」
「乗った!!」
かくしてお昼代につられた私は、同期の中村友子のお願い事できた場所はというと生まれて27年間無縁だった合コンだ。なんでも他部署のお目当ての浜田さんが来るとかどうとかでどうしても参加したかったらしい。わたしは高校の時にお付き合いした人と別れてからは特に出会いもなく仕事に一生懸命費やしてきた人生だった。自分の自由な時間が大好きだから特に結婚に焦るわけでもないし将来できてもできなくてもいいな、なんて思ってるくらいだから親泣かせな発言だと思う。けど両親もこんなわたしのことわかってくれているのか特に何も言ってこないからまあ恵まれてる。
「じゃあ明日の夕方18時からだからね!」
遅刻したらお昼の件無しにするからね、とガチな顔で念を押されたのできちんと家出る時間にアラームかけとこ・・・。そそくさと携帯のアラームを設定をし初めての合コンとはいえ、浜田さんには間違ってもアピールしてはいけないので相手のもう一人が本当に恋人欲しいと思ってる人だったら申し訳ないなあと思いながら電車の窓辺に映った疲れきった顔を触る。今まで男の人との関わりは社内で最低限だったからもしかしてわたし今いわゆる干物女状態なのでは。仕方ないから近くのコンビニでいつもは使わない高めのパックでも買うか。
「いらっしゃいませ〜」
夜9時のコンビニ、ビタミンのドリンクを入口付近にある冷蔵庫からひとつ取り化粧コーナーに移動する。えっ、コンビニにあるパックってこんなにも高いの?1枚400円近くもするじゃん。まあ今日くらいはわたしのお肌に潤いを与えるか・・・。さあてレジに行くぞ〜!とカバンから先に財布を取り出そうとした時にひっかかって家の鍵がカシャンと落ちてしまった。いけないと拾おうとした時に先にぬっと手を出して拾ってくれた人がいた。
「あ、」
「はいどうぞ」
「すみません、ありがとうございます」
「たまたま足元に落ちてきたので」
にっと笑ったその人は目がくりっとした爽やかなお兄さんだった。同い年くらいだろうか?久しぶりにイケメンと喋ってしまったなあなんて思いながらお会計を済まして、また帰る時にふと彼と目が合ったのでお辞儀してコンビニを出た。家に帰りお風呂上がりにぺたりと貼ったパックはわたしの肌を潤してくれてこれならこの値段も納得だなと顔をぺしぺしと触る。あらかた明日の準備が終わり、携帯をかまいながらベッドで横になっていたら気づいたら眠りについていた。
〇
「よしよし!よく遅れずに来たね!!えらいえらい」
「脅されたのでちゃんと来ました」
「脅してないわ」
「お昼にスタバも付けてね」
「欲張りすぎか」
バコッと肩を鞄で叩かれた。にしても今日かわいいね、と友子に言えば当たり前でしょ!!!と鼻息が聞こえるくらい横で目をキラキラさせる。
「しかもね、今日浜田さんともう一人来てくれることになった人は滅多にこういうのに顔出さないもう一人イケメンって囁かれてる泉さんなんだよ〜」
「ふぅん」
「ちょっと!本当に人気ツートップ揃ってるんだからもっと私に感謝してよね」
「そんなこと言われても顔知らないもん」
「仕事ばっかしてるからそんな風になっちゃうんだな、今日はとことん昔の恋愛観を取り戻しておくれ」
「善処します」
憐れんだ顔でみられたところでどっちにしろ今日は飲み食い楽しんで、最終的には気になっていたカフェ代も浮くことしか今は頭にないのだ。
少し歩いてから着いたお店はカジュアルな個室になってるお店だった。今更ながら今日の格好大丈夫だったかなと気になって、友子に聞くと可愛いよと言ってくれた。普段は履かないマーメイドスカートにボレロタイプのリボンシャツで少し大人めにしてきたけど普段のわたしはパンツスタイルにざっくりニットの定番スタイルなので次もし会社で会うことがあったら地味すぎて気付かれないかもしれないな、なんて手鏡で前髪を整えながら少し苦笑する。こちらへどうぞと案内された個室にはまだ浜田さんたちは来ておらず少しほっとした。席についてから上着を置いたところで店員さんがここの部屋に案内する声が聞こえてきたので少しそわそわしながら個室の扉をみる。
「お待たせしました〜!遅れてごめんね」
「ッス」
「こんばんは〜!今日はよろしくお願いします!わたしが中村友子で、この子が苗字です」
「苗字名前です。よろしくお願いします」
「俺は浜田良郎です!」
「泉孝介です。・・・あの、苗字さんどこかで俺と会わなかった?」
「え・・・?」
「泉、そんなベタなナンパみたいなセリフ言って」
「あ、あ〜!!もしかして今日コンビニで鍵拾ってくれました?!」
「あ、そうそう!!見た瞬間すごい見覚えある顔だなって思ったんだけど思い出せなくて」
「先程はありがとうございました」
お礼を言い合っていると横で友子がなに?いい感じなの?とにやにやしていた。そんなんじゃないけど、なんだかベタにこういうのに運命を感じるのかななんて思ってしまった。