ありがとうございました!!と皆の声にあわせて観客がぱちぱちぱちと手を叩く。後片付けも全部終わって駐車場の所へ行くと大概の部員の親が集まって話してた。そういや応援中も花井ん家と阿部ん所が騒いでた気がする。駐車場に俺も行けば一緒に来ていた水谷がワイシャツのボタンを閉めなさいと怒られてる。あーあ、水谷ってばまだ親にそんな事で怒られてるのかよ。なんて思いながらその風景に思わず笑みが零れる。幸せそうな笑顔だなあ、なんて思いながら俺も本当ならここで母さんに抱きついて試合勝ったよ、なんてするはずだったんだろうか。いや、高校生にもなって母さんに抱きつくなんて誰もしないし引くよなあ〜、なんて感情に浸ってたら水谷がお〜い大丈夫?なんて俺の前で手をひらひらさせていた。やっべ意識飛んでた。


「じゃあ、皆さんここで解散という事で!迎え居ない人は私の車乗ってねー!」


モモカンが今日はもう学校戻って練習はしないから、と部員がボールとかバットとか運び終わったのを確認して言った。迎え居ない人は、その言葉は別にただの普通の言葉だ。俺みたいな環境に居なければ。俺はいつかモモカンの車で帰らない時は来るのだろうか?まあ大抵はチャリかランニングで学校まで戻るんだけど。そう思い周りを見るとさっきまで居た部員のほとんどがすでに帰っていた。・・・羨ましいな。そしてモモカンの車に乗るのは俺としのーかと西広と巣山と泉。今日は皆仕事とか家事が忙しくて来れないんだって。皆を応援する親を見てると微笑ましくも少しつらくなる。まあ、こんな事言ったら皆に同情されるだけだから言わないけど。皆平等に応援してるつもりでもやっぱり自分の子供の時は誰よりも応援したいって気持ちが出てくるから他の人とは違う声の大きさで頑張って!って応援してる、試合に集中しててもどうしても耳には入ってきちゃうから不思議だ。そんな時俺にもこういう人が居るのに、居たのに。あんまり考え込んでるとまた苦しくなりそうだから、と思って少しじわりと滲んだ涙を裾でふき取り車に入ろうと


「ゆーと!!」


した。・・・のは良いけど声が聞こえてきて踏み込めた足をまた元の地面に降ろす。振り向くとそこには俺の幼馴染みの名前がいた。小学校のときに俺の家の横に家を建てて、同い年の娘、息子がいるってなってからは仲良くなるのに時間はかからなかった。それからはずっと一緒に学校に通ったりご飯食べたりともう家族同然のような存在だ。


「名前どうしたの?!」

「あの、・・・か、勝ったんだって・・・?!」

「えっ、なんで知って」

「お姉さんが阿部くんママからっ!連絡あったって」


急いで走ってきたのかそこで間髪入れずに話してたから息切れが激しい。三橋みたいだななんて頭の片隅でおもう。

名前は一回深呼吸をして俺をもう一度見た。


「それよりさー!!」

「え、なに」


名前は急にそう言って俺に手を差し出した。おもむろに出された手をぎゅっと握ると満足そうに笑う。


「帰ろ!!早くしないと日が暮れちゃう!!」


そう言うとにっこり笑って、未だ思考が儘なら無い俺の手をもう一度強く握り返してじゃあ、勇人は持ち帰ります!お疲れ様でした!と車の中にいるモモカン達に挨拶をして、俺は急いで下に置いていたバッグを肩にかけて一緒に歩きだした。・・・ああ、俺はこの手が欲しかったんだ、いつも憧れてた、この手に。勇君帰ろうね、っていういつしかの優しい手に。


「勇人?どうしたの!?どっか怪我したの?」

「・・・ちがう」


いつしか押し殺してた、皆への羨ましい、そして寂しいっていう感情が今吐き出されるかのように涙が溢れ出てきた。本当は俺はまだまだ子供だったんだなって、俺より小さい名前の手を見ながらなんだか色々吹っ切れた気がする。


「ありがと」

「えっ、なにが?変なゆーと!なに泣きながら笑ってるの?お姉さんと弟くんがご飯作って待ってるよ」


おう!と元気よく返事をして名前の差し出した手を取り駅まで歩くそんな試合終わりの夕暮れが心地よかった。