to get attached to someone.



「さ、栄口!!!!」


朝、血相を変えて教室に飛び込んできた苗字。額からは汗がすこし伝ってて急いできたのがわかる。


「そんなに慌てて何かあった?」

「それがさ」

「うん」

「昨日家につく直前で家の付近に誰か立ってるのがみえたんだけどね」

「・・・え、もしかして」

「昨日話した人が立ってたの!」


息が少し落ち着いた苗字はふうと息をひとつ吐いて俺の方へ向き直した。くりっとした目で見られると正直こんな話してるのによこしまな俺の心臓はドキっと跳ねた。


「こわすぎて、家の裏口から入ったんだけど」

「それは大変だったね」

「・・・それでね、図々しいとは思ってるんだけど」

「うん」

「わたしと付き合ってるフリしてくれないかな?!」


俺の手を取ってぎゅ、と握りしめる苗字の顔はいつもの笑顔はなくて不安そうな顔でいっぱいだった。昨日の夜ちゃんと寝れたのかな、目の下にできたであろうくまを思わずそっと触ると苗字の肩がぴくっと震えたのを見てふと我に返って慌てて自分の元に手を戻す。ご、ごめんと言えばふるふると首を横にふんわりと揺らした。


「それで、どうかな?」

「俺でいいなら喜んで協力させて」


そう言うと苗字は、ぱぁっと顔が明るくなって本当にありがとう!!!と何度もお礼をしているが、正直部活ばかりの俺には彼女のかの字もできないと思っていたから苗字を変な男から守るための嘘とはいえ、可愛い女の子と付き合えるなんて少し嬉しかったりもする。


「で、具体的に俺は何すればいいの?」

「それなんだけど」

「うん」

「まだ、なんも考えてない」


とりあえずわたしに彼氏が出来たら離れると思ってさ、へへと笑う苗字の唐突とした考えだったことに俺までつられて笑ってしまった。とりあえず、朝よりは少し元気になったみたいで安心した。


「あ、じゃあさ苗字さえよければなんだけど」

「うん」

「部活終わったあと一緒に帰る?」

「えっ、いいの?」


苗字も部活があるからそんなに待たせはしないだろうと提案したら今日からさっそく一緒に帰る事になった。なんだか、自分から言い出したことだけど女の子と帰るなんて初めてだし緊張しちゃうな・・・。


「とりあえず、栄口もいずれ好きな人できたら困るし」

「うん」

「幸いあいつも同じ学校じゃないから、学校内ではいつも通りでいいからね!」

「了解!」









とりあえず苗字からの許可もとって、部活終わりに巣山にだけはそれとなくことの経緯だけを話す事にした。


「まあ、ざっとそんな感じかな」

「苗字も大変なんだな」

「俺に彼氏役なんて務まるのかな」

「それはお前引き受けたからには頑張れ」

「そうだよな、よし」

「栄口にも彼女か〜」

「初彼女が偽物だけどね」

「俺らの恋人は野球だろ」


巣山があまりにも虚しいこと言うから思わず吹き出す。みんながぞろぞろと帰った後で苗字と待ち合わせしてた場所へと少し緊張しながら向かうと奥の方に携帯をかまいながらまってる苗字の姿が見えた。


「栄口おつかれ!」


俺の姿をみてパタパタと駆けてくる苗字を見たらなんともぐっとくるものがあるな・・・。偽、これは偽の彼女なんだぞ。なんて自分に言い聞かす。


「どうかした?」

「ううん!苗字もおつかれさま!」

「ありがとう。それで今日から宜しくお願いします」

「いいえ〜」


教室で話した時に、隣の中学だったから家近くなのかなって思ったらやっぱり俺の家に帰る通り道付近が家だったみたいだからちょうど良かった。


「じゃあ行こうか」

「はい」

「苗字と一緒に帰る時がくるなんて思わなかったな」

「わたしもだよ。とりあえず家の最寄り駅に自転車置いてあるからそこまで歩きになっちゃうけどいいかな」

「オッケー」


学校の裏側から降りて、俺の横を一緒に歩く苗字は街頭に照らされてなんだがいつもと違って見えてどきどきした。