ザアアアアアアアアアア
物凄い音を立てて青い空から大量に降る雨。夕立だとは思うけどいつ止むかわからない雨の中、生憎傘を持っていなかったため悠長に歩くのは嫌だったから近くのお店まで頑張って走ることにした。気合をいれて、冷たいをもはや通り越して痛いという感覚に変わる雨の中を走って、やっと近くの雨宿りできそうな店の前までたどり着いた。靴は濡れてるし髪の毛も顔にへばりついて気持ち悪い。さっきまでの青かった空は一変、だんだん暗くなって灰色の空模様に変わってこのまま本当に止むのだろうか・・・。ここのお店の前なら今日はシャッターおりてて閉まってるみたいだし、少しの間お邪魔させてもらおう。溜息をついて制服についた大量の水滴を落としていると、男の子がうわもうびしょ濡れじゃん最悪、なんて言いながら同じく水滴を落としながら隣に雨宿りしにきた。背は私なんかよりずっと高くて、雨に濡れてるはずなのに綺麗な茶髪の思わず触りたくなるようなふわふわ髪の毛。じーっと見てしまっていたせいかその男の子とパチリと視線があってしまって、気まずく思っていたら男の子はへにゃりと笑った。


「すごい雨だね、一緒に雨宿りしてもいい?」

「あ、はい。大丈夫、です」


私がそう言うと、男の子は可愛い笑顔でありがと〜とさっきよりもふにゃりと笑った。それと同時に雨もさっきよりも激しさを増してもう周りの音が何も聞こえない位だ。早くやまないかな、と思っていた矢先あの忌まわしい音と光が鳴り響いた。その瞬間どんより暗くなっていた空が一瞬明るくなって凄まじい音が鳴り響く。


「・・・ひっ」


そう声を漏らし震える手で耳を塞ぐ、そして本日二回目の雷。鳴る度に驚かないようにしようと思い、我慢してもどうしてもびくりと肩は揺れてしまう。小さい頃家の近くの木にバリバリッと音を立てて落ちた雷を目の当たりにしてしまってからどうも雷が苦手になってしまった。


「大丈夫?」

「だ、だいじょ、ぶです・・・」


震えた声で言っても説得力があるわけもなく男の子は苦笑して首にかけていたヘッドフォンをわたしの頭にかけて、それから手をぎゅっと握ってくれた。わたしは思わずびっくりして彼の顔を覗き込んだら優しい笑顔でわたしを覗き込んでくれてた。


「これなら怖くないし、音も聞こえないでしょ?」


そうなるべく聞こえるように大きな声で喋ってくれた。耳から流れるノリのいいバラードがリズムよく流れ、手には暖かい感触。それから何分か経った後雨は止んでさっきまでの天気が嘘みたいに晴れた。やっぱり通り雨だったのかも・・・。雨が止んだのを確認してからヘッドフォンをとって、彼に渡すとするりと握られていた手も離れていった。


「本当にありがとう。助かりました」

「全然気にしなくていいよ!てか、手繋いじゃってごめんね?!」

「全然・・・」

「良かったあ、俺部活で瞑想っていうのやってるんだけどその時に隣のヤツと手を繋ぐとなんか緊張がなくなるというか、そういうこと毎日してるからつい」

「雷、怖かったからむしろ繋いでもらって安心しました」

「へへ、ならよかった!」


お互い笑いあって店の屋根から出る。濡れてた地面が太陽に照らされてキラキラと光っていてとても綺麗だ。


「また、会えるといいね」


男の子はそう言って、わたしの家とは反対の方向へ歩き出した。帰り道は、彼がさっき流してくれてた淡い恋のはじまりを歌う曲のメロディがずっと頭の中に残ってて握られてた手の温もりがまだずっと消えませんようにと、彼の笑顔のようなほわほわとした気持ちがずっと胸の中に残っていた。

あれから彼のことをずっと帰り道に探していたけれどあの日はやっぱり偶然だったのかな、と思えるくらい彼には会えなかった。また会いたいな、と思うくらいには彼に心惹かれてる自分にすごく驚く。そりゃあ、あんなに男の子に優しくされたのなんてはじめてだからしょうがない。そんなことを友達にも伝えたらロマンチックなことがあったんだねと茶化さずに聞いてくれた。そんな今日はその友達が教科書を忘れてしまったというので中学からの友達がいるという7組の教室まで一緒に付き添いにいくことにした。普段関わらないクラスのところにいくのって、少し緊張。わたしはクラスの入口で待ちながらぼーっと廊下をながめていると、7組のクラスにあの男の子が入っていくのが見えてびっくりして持っていた携帯を落としてしまった。まさかの同じ学校・・・?!呆気にとられているとすごく背の高い坊主の男の子がわたしの携帯を拾ってくれた。


「ありがとうございます」

「どういたしまして」

「あ、あの」

「ん?なんですか?」

「さっき、教室に入っていった茶髪の男の子なんですけど、」

「・・・水谷のことか?」


名前が分からないから合ってるのか合ってないのか、わたしがなんともいえない顔をしていたら坊主の男の子は教室の入口から、話あるんだよな?と強制的に水谷〜!!と呼び出されてしまって心の準備ができないまま彼が教室から出てきた。


「花井なに〜」

「いや、この子が用事あるって」

「ん〜?」


それだけ言うと坊主の子は教室の中へと消えていってしまい、水谷くんの視線はわたしへと注がれる。何度か彼が目をぱちくりさせた後、あ〜!あの時の!と思い出してくれた。


「同じ学校だったんだね」

「あの時はありがとうございました・・・!」

「そんなお礼言われるようなことしてないよ」

「良かったら、」

「?」

「連絡先、教えて下さい!」


わたしがそう伝えればあのときみたいにふにゃりと水谷くんが笑ってくれて当分わたしのこの胸の高鳴りはやみそうになさそうだ。