こないだまでまだ肌寒かったのにいきなり暑くなって、ペットボトルにじんわりと滴る水滴が机の上にポタリと染みを作る。次体育だし日焼け止めでも塗っておこうかな〜、と鞄から日焼け止めを取り出すと隣の席の栄口にそんなんしなくても白くない?と声をかけられた。


「女子は地道な努力で白いんだよ」


そう答えると、大変だね。って言いながらわたしの腕に塗られていく日焼け止めに釘付けだ。じわじわと暑くなる体温に溶け込むように塗る日焼け止めを見て彼はまた十分白いのに、とわたしの腕をつかんだ。そういう栄口くんだって、野球やってるわりには白いよ、と言えば俺はそんなに焼けないタイプなのかもね、と腕を捲りながら苦笑いしてるとこを見ると気にしてるのかな、と思ったがわたし的には栄口くんは白いほうがお似合いだ。むしろ栄口くんがガングロになっていたらドン引きだ。世界の終わりの予兆かもしれない。そんなこと思いながら栄口くんを見つめているとどうしたの?と聞かれたからなんでもないとしか答えるほか術はない。


「夏といえば?」

「んー、俺は野球かな」

「苗字は?」

「わたしは・・・」


わたしはなんだろう。
夏と言えばやっぱり海だし、プールも好きだなあ、暑い日差しは嫌いだけどそんな日に食べるアイスは格別だし。夏祭りだって行きたいし浴衣も着たいかも。そのあとには花火もしたりしたらもう最高だよね。


「いいね、それ」

「栄口くん、海いこう花火しよう」

「いいねやろやろ」

「巣山くんも誘ってあげよう」

「だね」

「花火は栄口くんの奢りで」

「それはやだなあ」


ふふ、嘘だよ。って笑えば栄口くんは冗談に聞こえないぞ〜とははっといつもの素敵な顔で笑った。夏になったらきっとワイシャツから除く日焼けの跡が妙に嬉しくてわたしはまた栄口くんのことをからかいにいくんだろーなぁと、まだ薄いカーディガンを羽織っている栄口くんの捲られている袖を見ながら、意外と逞しいんだなあとかぼけぼけ考える。


「栄ぐっちはさあ」

「なにそのたまごっちみたいな呼び方」

「夏好き?」

「うんまあ野球出来るし」

「結局野球に戻るんだね」

「まあ楽しみそれくらいだしな〜・・・あっ」

「どうかした?」

「今年は苗字の水着姿が見れるね」

「えっ、えっ!栄口くんむっつり変態!!」

「はは」


あー!あついあつい!こりゃ、今年はダイエットしなきゃまずいんじゃないか、と冷や汗だらだらだ。栄口くんはそんなわたしを見ていつも通りにこやか〜に笑っている。


「今日は随分夏の話題じゃん」

「まあ近頃熱いですからね」

「確かにな」

「それにね」

「うん」

「スイカより、海より、花火より、」

「うん」

「夏の日差しの中グラウンドをかけまわっている栄口くんをみるのが一番好き・・・かな」


とお返事すれば、今度は栄口くんが真っ赤になって「ほんと・・・あっつい」なんていうからお返しに笑ってやった。


「早く夏が来ないかな」